演舞場発 文化を遊ぶ 第七回

演舞場発 文化を遊ぶ 第七回 2016年2月8日〜16日

新ばし芸者は銀座の芸者、
四回目を迎える、なでしこの踊りは2月8日は旧暦でいう元日から始まりました。食に、踊りに、装いに、新橋の新春の景色をご覧いただきます。

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会場は満席、開場時刻よりも早く、この時を楽しみにたくさんのお客様にご来場いただきました。

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芸者衆の踊りを待つ間、演舞場自慢の特別会席弁当をお楽しみ頂きました。

春を感じる献立は、目に、舌にお楽しみいただける品々をご用意しました。
多喜合わせもその名に劣らず、一食材ずつ丁寧に煮炊き合わせ、春らしい食材にそれぞれに合った味わいの優しい出汁を煮含めたました。
八寸の和布や独活(うど)、向付の鰤、ホタテなど、海の幸も山の幸も旬の味覚です。
留椀、最後の甘味の紅梅にいたるまで、優しい春の食感をお楽しみいただきました。

食事の間、芸者衆が芸名のついた千社札を貼った升酒をおすすめしながら、観客席を挨拶にまわると食事であたたまった会場の雰囲気に思わず笑顔がこぼれます。

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黒い着物は色白の芸者さんを際立たせてより美しく見せます。
艶やかな着物でも、満員の観客席の中でも、袂を内に込め、しっとりと美しくお酌する佇まいに、ついついカメラのシャッターを押すお客様も多く見られました。

ほんのりと八海山で会場が温まったころ、舞台へ上がった芸者衆が四人丁寧にお辞儀をして紹介が始まります。

一組目は
秀千代さん、清乃さん、千代奈さん、小福さんの四人が出演しました。

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秀千代さんは金沢のご出身。昼は資生堂パーラーの裏あたりの銀座八丁目の見番でお稽古をし、夜は銀座界隈の料亭でお座敷を努めてらしてる芸者さんです。

清乃さんは30歳ほどまで神戸でOL努めされていた芸者さんで、東をどりを見て憧れてこの世界に入られたそう。
この舞台の壇上で出演できることを目をキラキラとして喜んでいました。

千代奈さんは 東京出身で新橋花柳界に憧れてはいられたそう。なでしこの踊りは今回で6回目、これまでにすべて出演されているそうで、見た目にはとても初々しいかたですが、踊りは見事なファンの多い芸者さんです。

小福さんは長野県の諏訪のご出身。
今年小福さんの地元では7年に一度の御柱祭があるそうで、4月5月にお父様と弟さんが氏子のため出ているそうで、長野もいらしてください、そのあとは東をどりも是非に、としっかりとPRしてくださいました。
普段は男役をされている小福さんですが、今回の女役も楽しみです。

二組目は
のりえさん、くに龍さん、きみ鶴さん、小花さんが出演しました。
有終の美という言葉が似合うほど、四人、美しく会場を沸かせました。会場も満席。
後ろの席では少しでも芸者さんをよく見たいと立ち上がってご覧になるお客様がいらっしゃるほどでした。

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踊りが始まる前に見どころを大きいお姐さんの加津代さんや小喜美さんが説明してくれます。
お姐さんの親しみのある雰囲気に会場全体が和みます。

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一見さんお断りの花柳界、芸者の踊りというのは敷居が高いもの。
お二人が、踊りの意味や唄の背景を話すと、客席からは緊張よりもやわらかな笑みが漏れ、会場と舞台との距離が縮まったようでした。

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今回のなでしこの踊りは旧暦の正月。

今日の装いは、新橋の正装にふさわしい黒い着物を纏っています。

着物には紋が五つ
帯は風に揺れる柳のように、帯紐は締めずに、
丸帯を京都で誂えたものを折って、輪にして締めています。

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また、女形の芸者さんは手前に「ぶら」という今でいうストラップをつけています。
昔は好きな役者の紋をつけて楽しんだとか。

鬘は島田。若い芸者は高島田で、飾りはべっ甲のヘラ打ちに。
少し歳をいく芸者さんは島田はつぶして粋に整え、飾りに赤玉をつけます。

表側の髪飾りには鳩と稲穂。
鳥と米で「お客様を取り込め」という意味があるそうです。正月らしい縁起を担ぐ飾りです。
飾りの稲穂、実は新橋の見番の屋上で栽培しています。このお正月限定で見られる風景です。銀座のビルの屋上で芸者さんが田植えをしているなんて驚きのエピソードです。

鳩には目が入っておらず、好きな人に目を入れてもらいたいがために目を入れていないそう。
なんともいじらしいお話です。

男役の鬘は前が割れていています。また踊りの振りによってかんざしを変えています。
帯は後見帯(こうけんおび)、これは新橋の結び方だそうです。

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正月のお座敷は「初春」という演目からはじまり、「奴さん ししは さわぎ」で終わるというのが新橋でいう正月の風情。
この「初春」というのは門松、羽根つきなど昔の日本の正月の風景を唄ったものですが、芸者の試験の課題ともなるほど基本の踊りです。これが踊れて、晴れて芸者に成れる。
なにか春の風情にまたひとつ特別な思いをみる演目です。

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「梅にも春」は、お庭にきれいな梅がたくさん咲いている中で好きな人を待っている女心を描く唄。
扇子を使って、若水を井戸から組み上げる様や、かんざしをたたみに落として花占いのように「会える、会えない・・」と、畳の目を数えた畳算という恋占いも、これもまたいじらしく描かれます。

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「初出みよとて」は、1月7日は鳶の頭の出初式の唄だそう。
そんな勇ましいはずの踊りを、女形の芸者さんが髪の稲穂を払いながら、替え歌にして踊ると、目を見張るほどの艷やかなのが不思議です。

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「五万石」は唯一の男形。
江戸幕府 徳川の時代に岡崎城は五万石でもお城の下まで船が着くという威勢振り。出世前の勢いを唄っています。船の形や、船乗りが舟を漕ぐ姿が男らしく描かれます。結婚式などのでも唄われるお目出度い席の唄です。

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「銀座懐古」は昭和22~25年くらいに資生堂の白河忍氏という重役が作詞をされて、先代の杵屋六左衛門という長唄の先生が曲をつけました。
唄に、新橋の芸者や、チンチン電車や点燈夫、昔の三十間堀の風景や、こんぱる通りなど・・明治の賑やかで懐かしい銀座の風景が浮かびます。新橋の芸者さんたちに、いつの時代も大切に愛されてきたご当地ソングです。

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最後はお待ちかねの「奴さん ししは さわぎ」です。
昨年の夏も、この会場でお客様と練習しましたこの唄を、賑やかな正月座敷の風情で締めくくります。
奴さんの唄は本来は、男形の踊りですが、女形の芸者さんが踊るとまた可愛らしいものです。最後はお客様の唄や手拍子に合わせて踊りました。

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休憩をはさみ、最後はお座敷あそび。
壇上で踊る四人衆に加え、お姐さん方と長唄のゆいさんを加え、「梅は咲いたか」をお稽古のように会場のお客様と倣いながら唄います。会場が一体となったころ、お客様のお唄で芸者さんが踊ります。

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一組目の千秋楽は、秀千代さんの踊りで、最後の三番も唄い上げました。

築地橋から小舟を急がせ
船はゆらゆら波しだい
舟から上がって土手八丁 新橋へご案内

柳橋を築地橋、吉原を新橋にして、
なんとも粋な替え歌です。

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お座敷遊びが終わると、芸者衆との交流の時間。
会場中が本日まで踊りきった芸者衆を迎え、一緒に写真撮影されたり、声をかけていました。
お客様とお目にかかったのはほんの2、3時間前。ぐっと近づいたその距離と感動の声にきっと芸者さんたちの明日への励みになったに違いありません。

最後の最後まで別れを惜しむように写真撮影の行列ができていました。

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今日の記憶を胸に、また5月の東をどりに向けて芸者たちが励みます。
新橋演舞場にてみなさまとお会い出来る日を楽しみにしております。新橋の芸者衆の明日への活躍をぜひご期待ください。

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