演舞場発 東寄席 第十二回

演舞場発 東寄席 第十二回 2016年2月26日

「落語と日本酒を楽しむ会」はおかげ様で、十二回目を迎えました。

今回の登壇は過去の落語会で実施しておりますアンケートの中でお客様からの強いご出演の希望を頂いておりました柳家喬太郎師匠をお迎えしたということもあり、会場は定員を超えるほどの大盛況となりました。
新潟銘酒の麒麟山酒造こだわりのお酒と阿賀町特産品とともに、酔い(良い)心地のお時間をお楽しみいただきました。

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開演まで、テーブルに並んだ会席弁当とお酒をお楽しみいただきます。

食前酒には、新潟は「藤五郎」の梅を麒麟山酒造の純米酒でつけた黄金色の梅酒。ほのかな甘みとコクが料理の味を引き立てます。
小瓶に入ったお酒は、伝統辛口。麒麟山酒造メインの自信作です。

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お食事は春を彩る酒の肴膳。
ほのかな甘味と出汁の味わいの卵焼きから菜花の辛子浸し、魚は鮪に鯛と並び、紫蘇の実が添えられます。
味わい深い煮物、焼き物にはローストビーフなど、四角い御膳に飾られました。

お食事に合わせて、つい一杯、もう一杯とお猪口につぐ手も進みます。
いつのまにやら、お隣のお客様同士が、そして向かいのお客様が、初めての顔ながらに仲良く「おいしいわね」と笑い合います。
美味しい料理とお酒がつなぎあう。それはもう、この会恒例の一風景といえましょう。

おいしいお食事とお酒で、会場がわいわいと盛り上りました頃、
開口一番は縞の着物を着た、前座の三遊亭わん丈(じょう)さん、『東寄席』二度目の登壇です。
出囃子がなると拍手とともに高座にあがります。

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深々と頭をさげ、このあとの喬太郎師匠をお楽しみにときちんとご案内されたあと、

「開演前にひとつだけ、えー、お願いがございまして、お手持ちの携帯電話の音のならないようにご設定いただけてればご確認いただければ幸いです。」と丁寧にくわえます。

あらあらと、客席は携帯を取り出して確認します。

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「なぜわたくしが、こういうことをお願いするかと申し上げますと、高座の最中に携帯の音がなってしまいますと、師匠のご機嫌が悪くなってしまうのです・・。」

慌てて携帯の電源を確認されていたお客様も思わず笑い出します。

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「しかし、師匠はプロでございます。みなさんの前で機嫌が悪くなってしまうということは、こら決してないんでございます。楽屋でなるんです。あたくしのためにお切りくださいませ。」
二度目の爆笑。お願いされながらも決して嫌な気をさせません。

「そのほか、機器アラーム付き腕時計、シンバルタンバリン音のならないように、わたしはポケベルというかたは、そろそろ携帯に変えていただいて・・」

会場の心を一気に掴むわん丈さん、決して客席の酔いを覚まさずいい気分のまま、この日に合わせて演目は「寄合酒」を。

町内の若い衆を集めてお金を出し合って一杯やろうでないかと酒呑み計画をたてる落語です。 とはいえ、お金の無い若い衆、わん丈さんの巧みな話しぶりに会場中は大笑いです。

見事、開口一番を勤めあげたわん丈さんのあと、「まかしょ」の出囃子が鳴り響き、待ってましたと、大きな拍手。喬太郎師匠の登壇です。
白髪頭に落ち着いたオーラ、さすがは落語協会の理事である喬太郎師匠です。

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「えー、今日は、おいしものをもっとおいしく召し上がっていただこう・・・
なんてこれっぽっちもおもってません!」

と、すかさずフハハハハと師匠が軽快な笑い声!

これには会場も思わず大爆笑。

その後は、呑んだあとの麺が美味しい話や、満腹のはずなのに、ついそのらーめん屋で半ライスを頼んで汁につけて食べてしまう話だとか、
そんな生活を続けてたら・・こんなになっちゃうんだからと、立膝たてて、大きな腹を見せたりと。
はじめのオーラとは一変、なんともチャーミングな一面に客席からも笑いながら「そうなの、そうなの」と頷く声も飛び出します。

そうかとおもうと、瞬時に

「な~~~~べ~~や~~~~き~~~うーーどん・・・」

とうどん屋の構え。不意に始まる古典落語の世界観に一気に会場の空気を包むのが師匠の凄さ。
あれほどの笑いの中で、誰もが目を見張り息をのむのです。

今まで明るかったあの会場の明かりは何処へ行ったのだろうとおもうほど、なにも変わっていないはずなのに、そこはきんと静かな冷たい夜更けに変わりました。
静かに火鉢の火が消えぬまま、うどんやのぬくもりだけが夜の町を歩く様が見える気がして、師匠の演じる「うどんや」と酔っぱらいのやりとりを見守ります。

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うどんやの火鉢にうー・・・さむいさむいと手をあて、酔っぱらいの吐く息が白くもやもやと黒い夜に映るのが見えそうな世界観が突如として広がります。

酔っぱらいは下町江戸っ子のべらんめえ調の口調。酒臭さすら匂わせるような面倒なおじさんです。誠実なうどん屋と祝言の祝い帰りの幸せそうなお酒臭いおじさんが、そこに二人いるような、時代はいとも簡単にタイムスリップしました。

酔っぱらいがうどんを食べずに去った後、「なーべやーきうどんー」、うどんやの少し掠れた声とやるせないような物悲しげな空気が漂います。
その後、お客を見つけて火を焚くところもパチパチとうすら赤い火が見えるようでした。

お客が、うどんを食べるシーンなどはかつて、さん喬師匠がこの会場でうまいうどんを空で食べたことを生唾をごくりと見守りましたが、あのときの汁の旨さをなにか思い出した気がしました。

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ただ、うどんをすする。それだけなのに、涙が溢れそうになるのは何故なのでしょう。

あつあつのうどんをすすり、つゆをのむ時はゴクリなんて音ではない。コッコッコッというような精度の高い音をさせます。

息を飲んで見守る客席から思わず拍手も湧きますが、会場の反応なんかに師匠は動じたりしない。そこにはうどんやと、うどんをすする客しかいないのだから。
師匠の演じるうどんを食うシーンとはもはや物真似ではないのです。

笑う、泣く、動かされる、師匠の古典落語は最後まで、息をつめ、笑っているのですがどこか「はぁー」と息を留めて見つめていたことに気づいてしまうのです。

完全に師匠の古典落語に酔いしれます。

 

途中の15分の休憩の合間、「いや、すばらしかったね」とお客様が椅子の向きを変えてまた止まっていた箸を持ち直し、美味しい食事とお酒を挟みます。ここで用意されるのは麒麟山酒造の酒助でつけたぶりの酒助焼きです。

そうこうしていると「まかしょ」の出囃子が鳴り響きます。

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高座に着くなり、師匠が「いい加減よっぱらいましたな」と声をかけます。
会場からはお酒と食事とそれから一席目の師匠の落語に酔いしれた客席から「気持いい~」と声があがります。

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「さあさあさあさ、また落語ですよ。さきほどまでうまいもん食って、終わりになるなんて思ったら大間違いですよ。」とまた毒づき会場はまた大笑い。

一席目であれほど酔いしれた古典落語をしたとおもいきや一変、師匠はいろんな顔を見せます。気づけば師匠の新作落語「夜の慣用句」。

さきほどまでのあのうどんやに絡んでいた下町の酔っぱらいとはまた一味違う人間が描かれます。

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時代は現代、よくある日常のだれもが「そうそう、あれね」と頷いてしまうような裏話。
枕で見せた若い酔っぱらいの大学生もキャバレーで働く女性も、会社の飲み会で酒癖の悪い課長も喬太郎ワールド満載です。

日常の起こりうるだれもが頷く「ああ、ああ、そうそう」を師匠が切り取れば、たちまち下世話な浮世も笑い話。

その親近感のある笑いとセンスに、感心したり、お腹を抱えみたりと、会場の笑いは途切れることなく、あっという間の三十分を迎えます。

寄席が終わると、二部は「日本酒を楽しむ会」へと移ります。

テーブルに新たな食事が運ばれて、美味しいお酒を味わいます。
筍の炊き込みごはん、香の物には奈良漬にたくあん漬けです。たっぷりの具材の入る酒粕汁と一緒にいただきます。デザートにはミックスフルーツを添えた牛乳かんを。

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麒麟山酒造では、旨い酒をつくるために米どころ新潟のお米を使ったり、今回の大吟醸などは、社員が米から作るという徹底したこだわりをもっています。
麒麟山の酒につける奈良漬の野菜も作っていたりと、お酒に合うお料理のために数多くの食材をご提供いただきました。

手塩にかけたお米から育てた大吟醸と美味しい食材で、また一杯。師匠の落語のあとに、これもまたなんとも贅沢な時間です。

お楽しみ抽選会には、麒麟山酒造の酒助や、手作りのお野菜で作った、とっておきのレトルトカレーや、前掛け、Tシャツが。また師匠のイラスト入りの色紙を求めて最後まで大変盛り上がりました。

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次回は、4月25日(月)
『春風亭一之輔独演会』落語と日本酒を楽しむ会
です。
ぜひお楽しみに。

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