演舞場発 東寄席 第十三回

演舞場発 東寄席 第十三回2016年4月25日

新橋演舞場 落語と日本酒を楽しむ会はおかげ様で第13回目を迎えることとなりました。

ここ新橋演舞場地下『東寄席』に二度目のご出演、今のりにのっている旬な噺家、二十一人抜きで真打ちに昇進、落語会唯一の人間国宝でもある柳家小三治師匠に「久しぶりに見た本物」と言わしめた逸材、春風亭一之輔師匠をお迎えし、その持ち味を他の寄席では考えられない至近距離で体験して頂きました。

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一之輔師匠の高座をお楽しみ頂きながら、新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ演舞場の調理場でご用意させていただきました酒の肴と料理の味を引き立てるお酒も愉しんで頂きます。

落語と共にお楽しみ頂く日本酒は、山形・出羽桜酒造の池田様にお越しいただき、酒造の歴史と酒造りへのこだわりを語って頂きます。今回は本厚木で大正八年創業の望月商店に、この季節一番飲んで頂きたい酒蔵をご推薦いただきました。


師匠の高座を待つ間、客席のテーブルには正方形の四隅をはらった八角重が行儀よくならび、旬の食材と引き立てる吟醸酒桜花で主役の登壇を待ちます。


肴膳のお重は晩春から初夏のはじまりを感じさせる旬の取り合わせ。

ぬた和えや梅肉と筍のサラダ、など季節を感じながら、お酒のすすむ一品。

ふわふわとした蟹の風味をしたお豆腐の中に枝豆の自然な味わい、べっこう餡かけなど、新橋花柳界で育まれた美味を詰めたお弁当をご用意しました。



今回お酒をご提供くださいましたのはこの日本酒を楽しむ会ではお馴染みとなりました望月商店。


専務・望月太郎さんも、「やっとこの場もホームという感じに思えて来ました」と、ニコニコとご挨拶されていました。落語を愛してやまないという望月さんのとっておきのお酒のセレクトは今宵に似合う出羽桜の五種。会場全体を陽気に朗らかに包みます。


会場に流れる陽気な鳩ぽっぽの音楽に合わせ、はじめは見知らぬ同士の客席も、肩を並べて語らえばいつの間にか陽気な宴の雰囲気へと一変しました。



出囃子が鳴ると、開口一番。一之輔師匠のお弟子さんで春風亭きいちさんの登壇です。

声のよく通る方で、噺のテンポもよい きいちさん。2014年に一之輔師匠に入門された若い方ですが、すでに貫禄のあるよい語りぶりです。


落語の世界に出てくる先生というのは、知ったかぶりをする人物が多くて「先(さき)に生きてる」という先生、というよりも「先(ま)ず生きている」なんていうところが多いようで…。

と、客席を沸かせ噺の入りに。

「こんちはー!先生居ますか?」と元気よく訪ねてくる男の元に、
知ったかぶりの先生が「おや、だれかと思ったら”愚者"ではないか。しばらくこなかったな”愚者"。あがりたまえ”愚者"。こっちに来給え”愚者"・・」と。グシャグシャ呼ばれる男と、先生のとんちんかんな、やりとりの始まりです。


自称「知りすぎた男」の先生と愚者の掛け合いはテンポよく、魚の名前の由来やら、土瓶、鉄瓶の名前の由来やら。これはなんだ、あれはなんだと なんだか妙な理屈の先生の知ったかぶりにたちまち会場は大笑い。

「鯨は魚類じゃ無いんだぞ」という先生の言葉に、会場からは「哺乳類!」と起こり、噺一本勝負で会場を引き込んでいることがよくわかります。


しまいには"パパンパン!!!"とセンスを叩き講談師のごとく、それは流暢に語り出す様子には思わず息を呑んでききいってしまう話芸の妙味。さすがは一之輔師匠のお弟子さんと見事な開口一番を勤めあげました。


引き続き、出囃子は「さつまさ」が響けば、大きな拍手。登壇するは待ってましたと、一之輔師匠の高座です。

低く静かに語り出す姿は男前。丁寧に挨拶をされたあと、「わたくしも二度目なんでございますけど、まだホームという感じはいたしません・・・」と先ほどの望月商店さんの挨拶を思わすご挨拶。

これには会場も笑い出します。




新橋演舞場で独演会いうと、まわりは「すごい。なんだかわからないけどすごい!」といわれ、「食堂でだよ」

というと説明が面倒くさいですよ、

そう言ってまた会場は大笑い。入り口の宛名の違う胡蝶蘭のことやら、銀座の会場の客席のお召し物のタンス防虫剤臭のことやら・・今見たもの、あるものが飛び出せば、なんだか会場全体が一気にホームと化す。

はじめのあんなに突き放したようなクールな佇まいの師匠はどこへやら。ボルテージがあがり、のちには研究し尽くされた役回りの絶妙なタイミングの一手が会場を笑いの渦へとぐっと引き込みます。

「言いたいことは言ったんでこれで帰ってもいいですか?」もはや会場が離しません。


新橋演舞場では、よくこのような日本酒の会にお酒の演目があがりますが、師匠はそういう噺はしないといいます。

かつて小三治師匠が下戸でいらしても酔っぱらいの真似がうまかったのは、下戸のほうが、酔っぱらいをよく観察してるからだといいます。

「こんなところでよっぱらった振りをしたところで、そっちのほうに本物がいるわけなんですよ。」

会場中が大笑いです。


酒の出回る日本酒の会が「呑む」ものときて、「呑む・打つ・買う」とあらばと、

今宵の一席目は「打つ」噺。「道楽もすぎたら、そんなもん」と語り出す様はさすがは、粋です。

そんな演目は「へっつい幽霊」のはじまりです。


道具屋と、三円でへっつい(かまど)を買った男のやりとりが堪りません。

幽霊のでるへっついを買ってしまった男の慌てた切り替え登場人物が目に浮かぶよう。

テンポがよく、急な坂道を球が転がるように師匠の噺はトントントントントーーーン!!!!駆け抜けるところと、とたんに「ギャーーーーーーーー」とも言えぬ可笑しな叫びがとんでくる。

びびりな男と、へっちゃらな男。愉快痛快、飛び出たキャラクターと、心地良さ。会場は笑いが堪えませんでした。


一席目が終わると、仲入りは出羽桜は純米吟醸「深緑」とともに。爽やかな辛口の酒が心地良く香ります。

出羽桜の仕込み水も振る舞われ、今宵の酔いすぎを明日に響かぬようと、からだを気遣うやさしい軟水の気遣いも嬉しいはからいです。


仲入りが過ぎますと、拍手とともに師匠が高座へ上がられます。

客席を見回した師匠が「休憩の間で一升瓶が並ぶ」と毒づいて会場をまた笑い出します。

おもわず、客席からは「お水です、お水」と笑いながら声があがる。


師匠も、お水?と聞きつつも、「欲望には再現がない、、チェイサーってやつですね。でもねえ、好きな人は際限ないですからねーと」続けば、会場は再び安堵と笑いに包まれます。


二席目は「呑む・打つ・買う」の「買う」お噺。


まあ、買うなんていったら女郎ですね、なんていったら今回女性多いですからね。と気遣っているようでいて
「もと花魁の方はいないとおもいますけど」と言えばまたまた会場がわっと湧く。


「そんな生易しい世界じゃないんだよ。という方はいないとおもいますけれど」と畳み掛けて、大笑い。


二席目飛び出すは「お見立て」の噺。


吉原の玉台ではお金をたとえ払っても、花魁の見栄っ張りと好き嫌いで顔を出さないなんていうこともある。


花魁、喜瀬川とそれを気に入るズーズー弁の杢兵衛(もくべえ)の大尽(だいじん)。二人に挟まれ奔走する喜助(きすけ)が、またもや痛快。


杢兵衛大尽に会いたくないからうまく言ってと、喜助に嘘をつかす、困った花魁のお噺です。


「けすけ(きすけ)かあ?けすけだんべえ?」からはじまり、杢兵衛大尽(もくべえだいじん)の面白おかしいイントネーションと、きすけの頭の上の「?」マーク、花魁・喜瀬川の嬶天下(かかあてんか)ばりの奔放さをそれは絶妙に師匠の中からひき出しました。高座には師匠一人しかいないことを忘れるほどのこの演技力。


ひっきりなしに畳み掛けられる笑いのセンスに会場中のハートはがっつり鷲掴みといったところでしょうか。笑いに笑うあっという間の90分が過ぎました。




落語会終了後、テーブルには黒むつの照り焼きや湯引き鱧の留椀などと一緒に。
これもまたお酒好きには堪らない利き酒の会へと続きます。

利き酒会のスタートに相応しい、フルーティーな吟醸発泡酒はシャンパンと同じ製法で作ったという「とび六」というお酒。呑みやすく楽しめるお酒に、ついつい進んでしまいますが、アルコール度数15度と高いこのお酒、落語の後の良い心地に、一層のこと、会場を酔わせます。

続いて振る舞われるお酒は食べるお米で作ったといわれる 出羽桜は「つや姫 純米吟醸無濾過生原酒」と、昔ながらの山廃仕込み製法でつくった「山廃特別純米」を冷やさず常温で。
ここでは山形・出羽桜酒造の池田様にご挨拶をいただきました。

村人がお酒ごとに丁寧に作っているというお酒は毎年実は少しずつ味わいが変わるそうですが、それも丁寧に作っていることの証。知るごとに味わい深い一杯です。

呑んで笑って、また呑んで・・ 会場がまた温まるころ、くじ引きの抽選会で盛り上がります。
出羽桜の一合枡や、お酒、酒屋らしい粋な前掛けやデニム地のエプロン。
また一之輔師匠の色紙など、たくさんの景品と会場の感嘆の声!

本日もまた、楽しい酔いのひとときをお楽しみいただきました。

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