演舞場発 東寄席 第二十七回

演舞場発 東寄席 第二十七回 2017年6月29日(木)

東寄席も早いもので今回で27回目。今宵もまた、ここ新橋演舞場地下『東寄席』に足をお運びいただきましてありがとうございます。
その昔、旦那衆が新橋の花街の真ん中で料亭の美味しいお食事とお酒を嗜みながら落語を聞くといった粋な遊びがありましたが、ここ新橋の花街に位置する東寄席でも、そういった楽しみを味わっていただきたく皆さまにもお届けしてゆきたいと思います。それではこのたびの一流の芸と味を振り返りご紹介いたします。
『第二十七回 落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』春風亭一之輔

落語を楽しむ

開口一番 『たらちめ』春風亭きいち

春風亭きいちさんは2014年に一之輔師匠に入門して早3年。東寄席は今宵で二度めのご登壇です。一度めの高座は2016年の春。今宵と同じく春風亭一之輔師匠の開口一番をつとめました。あの日よりもまた一皮剥けたような逞しさ。なにか“噺家らしい間合い”のようなものを携えて見事立派に成し遂げました。
演目はなんの縁(えにし)か神様の悪戯か。根っからの江戸っ子、口の悪い連中の八五郎(はっつぁん)に嫁いだ、これまた対照的なほど言葉づかいが丁寧すぎる女房が登場する「たらちめ」のお噺です。この一見、会話など通じ合わないであろう異色の若夫婦のサゲが「飯食うのに恐惶謹言とは、じゃあ酒呑むなら依って(酔って) 件のごとし!」とは。一生独り者かと思われていた不器用な八五郎のはっつぁんもお嫁さんをもらって早速も男をあげたなと思わせる印象的なお噺です。妙にうまくやれているこの新婚夫婦の会話はジューンブライドのこの時期に似合う、寄席らしい笑 いに包まれた幸せな一興。会場は終始笑いに包まれたのは言うまでもなく「依って(酔って)件のごとし」。良い心地をお愉しみいただきました。

一席目 『代書屋』春風亭一之輔

春風亭一之輔

東寄席では今宵の回で三回目の“さつまさ”が鳴り響きます。その音が響くなり、春風亭一之輔師匠の一席を待ちわびた客席が盛大な拍手で迎えます。

「えー、一年で一回くらい呼ばれます。通算三回目。」一之輔師匠ははじめは静かにゆっくりと語ります。そうして客席を見渡すなり、一拍おいて一言。

「いいですね。陽気な法事みたい」

開始三十秒、沈黙は破られ早くも大爆笑が起こりました。「法事の中でも23回忌とか、もうドレスコードも無い(法事なのに)なんだか笑っちゃってる人も出てくるようなやつみたい。」この客席を法事に例える人などそう無いでしょう。しかしなぜか「わかる」と思わすそのセンス。なかなか出会えぬこの共感を呼ぶ笑いのポイントを生むのが一之輔流、とでも言いましょうか。会場を見渡すとだれもが皆声をあげ、笑っていました。

春風亭一之輔

客席の椅子は舞台を横目にテーブルに向き、それがどこかぎこちなく舞台を向くのを見て、「そんな無駄な抵抗はやめて椅子ごとこっちに向けてください。車庫入れみたい。」と笑わせながら客席をまっすぐ、師匠側へ向けます。会場はこれ以上無いほど師匠に釘付け。好奇心の眼がまっすぐに師匠へ向けられます。

仕切り直した一之輔師匠は「新橋演舞場。劇場... 食堂...」と片言にテーブルに並べられたご馳走を見ながらつぶやくだけで、なんだかもう可笑しくてしょうが無いと客席は笑いだします。すでにぶその声、音量、間合いのすべてがなんだか笑いの温度を帯びています。

この時にはもう、師匠の話には言うなれば文末の「。」が無くなります。語尾の読点とは何なのか、日本人が潜在的に「ここで文章の区切りだろう」という部分で普段なら「。」をつけて一息 ついて終わらせたがるそのタイミングに、また一笑い、そしてまた一笑い、どんどんどんどん「笑いの波」のようなものを畳み掛けていきます。これがまた一遍足りとも休ませてなどくれません。 そう、はじめは静かに、そして畳み続けてじわりじわりと観客があたたまるのとともに師匠の音量も気づかせないように上げていきます。あの特有のブラックユーモアと時々見せる剽軽さが代る代る顔を出し、時にご婦人が手で隠しながら指の隙間から見せる色ネタなんていうのを挟みこんでいたりして、息をつく間もなくこの夜を一之輔ワールドに変えていくのです。

いい服を来ている、ブランドを身に着けている、そういうものとちょっと似て非なる“センスの良さ”みたいなものを感じる男前。男前はゴマをするようなおべっかを使わずとも客席の懐に入るのも上手く心地よく笑わせ続けます。

枕では「わたしも歌舞伎は見ますがね、歌舞伎なんていうのよりどっちかというと、噺家のほうが潔い。」と語ります。歌舞伎役者は素顔では出られないし、松竹の用意した豪華絢爛な衣裳と、舞台と全て用意されてますが、「わたしたちなんてね、素顔ですよ。これ、(と、自分の着物を指して)自分で洗ってますよ。衿に水糊みたいな塗るんですよ。これだってポリエステル、に見えないでしょう?折って畳んでネットでエマールでソフト洗い。玉三郎さんや仁左衛門さんが自分で衣裳あらってるのと一緒にしてほしくない。古典でくくってもらいたくない。」こう話す間にどれだけ客席の笑いの波が打ち上げられたかわかりません。

春風亭一之輔

演目は師匠のアレンジの効かせた「代書屋」を。無筆で学の無い男の履歴書を、クセのある偏屈な代書屋が登場するお噺です。一之輔流のユーモアで怪訝な顔の代書屋が男の 履歴書を言われるままに書いては一行抹消、また一行抹消.. とやる。最終的には男の本当かどうかわからない姓名「中村吉右衛門」と住所と小学校中退の内容くらいしか無いの ではといった履歴書を作り出して会場中が大笑い。あっという間のその一席が終わったあともその余韻は客席の笑顔を止ませませんでした。

二席目「大山詣り」春風亭一之輔

春風亭一之輔

仲入りを終えた師匠は衣裳を替え、またも盛大な拍手で高座へ迎えられます。続いての話題は落語協会での夏の話題に。例年、7月31日は毎年落語協会で大型バスを数台貸切って会長から前座まで全員揃って成田山新勝寺にご不動様をお参りにするといった恒例行事があったとか。お酒を何ケースか買い込んで朝の9時集合し、揃いの浴衣で鈴本演芸場からバスに乗ってドンチャン騒ぎ。行きのバスからいい気分でベロンベロンになって、帰りのバスなど「途中で降りる!」なんてワガママをいう者が出てきたり。挙句バスガイドを泣かせてたり...。
なんてこともあったそうで、以来この恒例行事は無くなったのだそう。なんて驚きのエピソードも、丁度よく今宵の二席目は「大山詣り」。 昔の江戸っ子もちょうどこの時期、6月の末から7月初旬の限られた時期に相模国の大山の阿夫利神社に行ったとか。ところがいつの時代も男同士お酒が入って旅すれば、いつの時代もふざけ過ぎることもあるそうで。頭を丸められた坊主姿の熊の役を坊主姿の一之輔師匠が演じるのも面白く、お山が無事に住んで町内に帰ってきたらカミさんのお毛が(怪我)なかったというサゲまでも大爆笑の二席を楽しみました。

味覚を楽しむ

演舞場の美味を楽しむ

○演舞場の美味を楽しむ

今宵の献立も旬の食材をふんだんに。梅雨時期のじめじめとした暑さを忘れさす爽やかな味わいをお愉しみいただきました。先付けでは今宵の銘酒、麒麟山の日本酒をじっくりと味わえるサメ軟骨に梅肉掛けを。酒の肴膳ではこの時期採れるぜんまいを田舎煮で。茄子は田楽、旬の甘みのあるもろこしはクリームコロッケで味わいました。煮物には高野豆腐に冬瓜や蕗、かに入りの銀あんかけで優しい味わいに調理して。吸い物にも初夏の味わい、湯引きの鱧を三つ葉とゆずを添えました。日本酒をお楽しみいただく会では赤魚の旨味を感じる塩焼きを。新橋が誇る齋藤正達調理長の特別献立をお酒とともにお楽しみいただきました。

本日の特別御料理

  • 本日の特別御料理 肉巻き
  • 本日の特別御料理 うどん

○スティックセニョールと寒椿うどん

スティックセニョールはブロッコリーと中国野菜の芥蘭(かいらん)をかけあわせてできた日本で品種改良されたお野菜です。アスパラガスに似た甘みある花茎のスティックブロッコリーを肉豚巻きでお召し上がりいただきました。また麒麟山酒造のあるJA阿賀町よりご提供いただきまし た寒椿うどんを今宵のご飯替りに。細めのおうどんに長ネギとおろししょうがを添えてさっぱりといただきました。もちもちとした歯応えが美味しいこの時期にぴったりの味わいをお楽しみいただきました。

お酒を楽しむ

演舞場の美味を楽しむ

落語と共にお楽しみいただく日本酒は、二回目のご案内となります新潟・麒麟山酒造。齋藤社長にお越しいただき、麒麟山のお酒の魅力をたっぷりお話しいただきました。麒麟山酒造は、福島県の県境、冬は2mの雪が降る豪雪地帯の新潟県は阿賀町にその蔵があります。この町の地元で栽培された約1万俵ものお米が作られています。約9,000俵は地元の農家の方に、そして残りは麒麟山酒造社員も一眼となって米作りに携わって栽培しているという、日本酒の業界ではなかなか無い取り組みをしている酒造です。メインは辛口のものが多く、特別なお酒というよりもスッキリとしていて飽きずに飲めるので、毎日でも飲み飽きない美味しさです。今日はそんな麒 麟山の中でも定番で愛され続けているお酒から、この夏限定のお酒まで四酒をご紹介いただきました。

(写真右から)

○麒麟山 伝統辛口 本醸造
麒麟山では一番、人気のヒット商品。全体の65~70%を占めています。昔でいう二級酒に当たるこのお酒は冷でも燗でも美味しく味わえるお酒です。

○麒麟山 季節限定 ピンクボトル吟醸酒
吟醸酒ですが、アルコール度数を少し下げて作っているのでスムーズにするすると飲める逸品です。

○麒麟山 季節限定 夏酒
夏限定のお酒。夏らしい清涼感を持って作られている吟醸酒です。

○麒麟山 kagayaki 純米大吟醸
蔵元がお客様の元にお届けしました最後の大吟醸酒はワイングラスでお楽しみいただきました。麒麟山のお酒の中でも香りが高くとてもフルーティ。その日本酒とは一見思いも寄らない新しい味わいに客席を沸かせた逸品でした。

お楽しみ抽選会を楽しむ

  • お楽しみ抽選会 サイン色紙
  • 本日の演目

今宵の抽選会も選りすぐりの景品が揃いました。麒麟山の畑で収穫された米や酒粕入りの特製フェイスパック、また麒麟山酒造の前掛けにTシャツなど豪華賞品が揃いました。
演舞場からは東をどりで芸者が踊りに使用していたものと同じ、非売品の手ぬぐいや7月のペアチケット。最後に今宵、会場を笑いで温めた春風亭一之輔師匠のサイン色紙でまた会場を沸かせました。
抽選番号が上がるたび、響く歓声に響く拍手。最後まで、お酒とお料理を前にその余韻までも笑顔の中、ゆっくりとお楽しみいただきました。

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