演舞場発 東寄席 第三十回

演舞場発 東寄席 第三十回 2017年9月28日(木)

 本日は『第三十回落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』にお越しいただき、誠にありがとうございました。
『第三十回 落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』柳家さん喬

  この『東寄席』も早三十回。節目の開催を記念すべく第一回目の高座をお勤め頂きました柳家さん喬師匠にご出演いただきました。さん喬師匠といえば、ただ単に良い噺を聞かせるだけでなく、ライブでしか得られないお客様との『間』を感じ、同じ空気を吸うことが大切と考えていることもあり卓越した話芸に魅了されるファンがたくさんいらっしゃいます。五度目のご出演も普段より20席以上増席をしているのに関わらず、またもや満員御礼です。
また本日の酒造はこちらも江戸時代から続く老舗、新潟から今代司酒造さんに観て、呑んで、楽しいお酒をご紹介いただきます。
さん喬師匠のお噺とともに、お酒に合う料理に舌鼓を打つ。江戸から続く落語のうまみを秋の味覚と一緒にお楽しみいただきました。

開演

本日の江戸東京野菜 TYファームさんの「八丈オクラ」

  「不調続きでなかなか提供できなかったのが、今回やっとの想いで収穫してお持ちしました。」と語るのはTYファームの島田さん。東京の青梅で無農薬の江戸東京野菜を栽培しているこのTYファームの島田さんも、この東寄席では随分とお馴染みのお顔となりました。
今回この東寄席にご提供いただいたのは「八丈オクラ」です。
普段スーパーなどで見かけるオクラは、五角オクラがほとんど。切った断面が星形のようにギザギザとした角のある形をよくごらんになると思いますが、長さも10cmに満たない大きさの五角オクラ対して、八丈オクラはもっとふっくらとしていて15cmから20㎝ほどの長さと実り、断面も角の取れた丸みのある形をしています。

八丈オクラ

  小鉢の中で烏賊と和えた先付けは五角と八丈を混ぜたもの。星型と丸みのある断面のオクラを箸で摘みながらその味わいを食べ比べいただきました。
八丈オクラはその名の通り東京の八丈島が由来。アフリカ北東部からエジプト、インドと広がって江戸末期に八丈島に伝来されたオクラは、今もなお、その歴史とともに種を継いで愛されています。通常の五角オクラをこれほどの大きなサイズに育ててしまうと硬くて食べられなくなりますが、八丈オクラは大きいのに柔らかく甘みが強いのが特徴。その美味しさについお酒もすすんでしまう客先の笑顔が印象的でした。

本日の落語演目

開口一番 『平林』金原亭乃ゝ香

 登壇されるなり笑顔で挨拶をされるのはこの席初登壇の金原亭乃ゝ香さん。乃ゝ香さんは金原亭世之介師匠に入門して今年2017年3月に前座として寄席入りしたばかり。近年「美人すぎる市議」「美人すぎる書道家」などと並び職種からは想像のつかない意外なものに「美人すぎる」とついた呼び名が流行っていますが、大学生でミスコングランプリで受賞の経験がある乃ゝ香さんも巷ではそれと同じく早くも「美人すぎる落語家」と噂されるほどの華やかさで壇上をパッと咲かせました。とはいえ、器量の良さだけに留まらない乃ゝ香さん。
「わたしも金原亭という亭号をいただいているのですが、この亭号なかなか「きんげいてい」とは読んでもらえないんですね。“きんばらてい”はまだいいけれど“かねはらってい”と読むのは許せません」と、たちまち会場を沸かせました。そんな名前にちなんだ演目『平林』。平河町の平林さんに手紙を届ける定吉のリズミカルでユーモラスな古典落語に会場は笑いに包まれました。

一席目 『笠碁』柳家さん喬

柳家さん喬

 続いて本日の主役、柳家さん喬師匠の登壇。割れんばかりの大きな拍手と「よいしょ!」「待ってました」の威勢の良い掛け声がさん喬師匠を迎え入れます。
今回の東寄席はさん喬の寄席が楽しめるとあって普段は定員数を増やして150名で満席となりましたと、興奮して冒頭で伝えた司会者の言葉を裏方で聞いていたさん喬師匠、「空席があっ ても満席というんだから」とニヒルにいって会場を笑わせました。

柳家さん喬

 師匠の枕に声をあげて笑う客席。それとは対照的に師匠は決してボリュームを上げずに、今日の少し冷えた雨の一夜を崩さないような空気感を保って枕を続けます。音を上げずに好々爺のように穏やかに語りかける。この空気感を堪らなく愛する会場中の空気感がさん喬師匠の「秋」にちなんだ枕を「飽き」などせずに大事に大事に一語一句もらしません。

そして秋雨がしとしとと降るこんな一夜にぴったりの演目『笠碁』がはじまります。

碁盤の前で囲碁の大好きなご隠居が二人。
「今日は待ったなしでやろうといったんだ。待ったは今日は無しだよ」と言い合うところから幕があけます。
次の一手が思うように浮かばず、手を膝の上でもぞもぞとさせてみる。動作のひとつひとつがひとりの人間の性格や特徴を作り上げています。師匠の細く目尻の垂れた優しい目が、時折開いてみせたり不機嫌そうに閉じたりとすべてで物語ります。たった一目”待って”をかけるだけのことに、いい年寄りが情けないほどの言い訳をしたり意地をはったりして往生際の悪いやりとりをする。しかし、その「たった一目」を幾重にもふくらみを持たせます。ご隠居二人の意地の張り合いは終いには、へぼだ、ざるだと子供じみた罵りあいで喧嘩別れ。

どこにでもあること。それが人の情けというもの。誰にでも覚えがあるから共感をして胸が疼くのかもしれません。

柳家さん喬

 喧嘩をした後、一日二日は孫と遊んで暮らす。しかしこれが、五日、六日とたつと秋の長雨が降って暇を持て余す情景描写。互いのことを空に浮かべてまた一緒に囲碁がやりたくてやりたくてしょうが無い。多く言葉で積み重ねてみたりなどせずともそんな情景が手に取るほど理解できて、ぐっと胸にこみ上げます。

「よく雨がふるねえ」

この一言が外の雨をこの会場の中に取り込んできたかのように空気感を生みます。
猫を抱えた婆さんの隣で秋雨をぼんやりと構えてお茶をすする。たった一目のことでなんであんなことをいってしまったんだと思いながらなかなか腰を挙げるタイミングが見つかりません。
大人げないとわかっちゃいつつも素直になれないところがどこかくすぐったくて愛らしい。
見事なまでに人情噺の世界観に風呂場の湯のようにきっとだれもがどっぷりと肩までつかってしまったのではないでしょうか。
これがまた老いぼれた二人の仲直りも「待ったなしの人生なんだから」と清々しい。すぐに碁盤を引き出してまた囲碁をはじめては「その一目まっちゃくれねえか」というサゲ。
きっと次にこんなひんやりとした秋雨が降る頃もこの噺を思い起こしてあたたかい気持ちになれそうな温かい一席。会場中が幸せな感謝の拍手を送りました。

〜仲入り〜

二席目 『寝床』柳家さん喬

柳家さん喬

  読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋。秋はなにか趣味に勤しむのに丁度よいもの。そうして習いごとをすればどこか、そのおさらいでもって人にならったことを見せてやりたくなることもあります。さん喬師匠も「車など習うとね、だれかを乗せたくなりますね。命の友を助手席にね」といって会場を即座に笑いに変えました。

 二席目は、商家の旦那が凝っている義太夫を人に見せたがるといった演目の『寝床』。
ところがこの義太夫、下手な横好きで誰も聞きたがらない。番頭の茂蔵に町中に呼んでこさせたようですが、広間に座布団をたくさん敷いたり料理を用意しても誰も来やしない。あっちが都合悪い、体のここが悪い。腕が痛けりゃ、目も悪いと言い訳もひどいもの。言いづらそうに言い訳を語る茂蔵の話しぶりにも会場中が大笑い!しっぽりと終えた一席目とは趣向を変えたコミカルな演目に会場はすっかり大笑いで酔いしれました。最後はまた割れんばかりのやまぬ拍手が秋の夜に響かせました。

  • 柳家さん喬
  • 柳家さん喬

日本酒を楽しむ会

本日の日本酒「新潟・今代司酒造」さんのお酒

演舞場の美味を楽しむ

 1767年、落語と同じ江戸時代に創業した今代司酒蔵は創業当時は酒の卸業や旅館業、飲食業を商いにしていました。明治中期に造り酒屋を始められ新潟を代表とする酒造となったそうです。
地盤がよく阿賀野川のきれいな伏流水の湧くこの土地は原料や製品の運搬を栗ノ木川によって支えられる条件の揃ったこの沼垂(ぬったり)という地で蔵を構えました。発酵食の町としても知られるこの町の蔵は一流料亭の職人たちに鍛えられ味を追求してきた酒蔵です。

演舞場の美味を楽しむ

 古き良き歴史のある酒造は、現在では様々な企業コラボをするといった新しい様々な取り組みでも注目されています。GINZA6の蔦屋書店として造る純米酒、横浜DeNAベイスターズと提携した女性向けのオリジナル純米吟醸生酒「しゃぽん しらほし」、新潟県で農業に取り組むJRと一緒に提携して生まれた『新潟しゅぽっぽ』など、酒造だけでは生まれない新しい日本酒の美味しさを追求しています。これからも酒屋とは違う場所でこの美味しさに出会えるかもしれませんね。


今宵はそんな趣ある今代司酒造のうまい四種を営業部長の佐藤さんのご挨拶とともにお楽しみたいだきました。

お酒を楽しむ

お酒を楽しむ

(写真右から)

○福酒 スパークリング純米生酒
二次発酵のガスの充満した瓶はスパークリングタイプの純米酒。そう、開封すると『吹く酒』です。米のほのかな甘味を損なわず、けれど甘すぎず淡麗で、食事にも合う非常の珍しいお酒です。
ラベルについた縁起だるまに片目を入れて縁起かついで呑むも良いそうですが、二杯目、三杯目と瓶を注ぐごとにラベルの達磨のように瓶を揺らして起こすことで底に沈殿した麹が目を覚まし味わいを深くさせる味の変化を愉しむのも面白い一酒です。

○天然水仕込み純米酒 今代司
一番の定番種 天然水仕込みの純米酒
今代司酒造が全量純米蔵へと転換した2006年。米と水だけで酒を造るならそのこだわりを更に高めようとこだわり抜いた米と水を使ってできた今代司の看板酒のひとつです。酒造好適米を65%までに磨き上げ、水は新潟県内の「菅名岳」の麓にこんこんと湧く天然水を使用。この水のうまさがこの酒のキレの良さを生み非常にきれいな澄んだ味わいです。サラリとした口当たりが食中酒としてバランスを良く合わせます。

○ひやおろし純米大吟醸 今代司
ひやおろしは冬に造った酒を火入れして貯蔵し、ひと夏寝かせて外気と貯蔵庫の中の温度が同じほどになった秋に冷やのまま出荷することから「秋あがり」ともよばれるこの時期まさに旬のお酒。熟成の進んでまろやかになった味わいが特徴です。またひやおろしで純米大吟醸はというのも貴重です。もうこの会場で呑みきってしまうかどうかという稀少なお酒を提供いただきました。

○錦鯉
日本のグッドデザイン賞をはじめ、世界各国でデザイン賞を26も受賞しているお酒。パッケージは並べると錦の鯉が泳いでいるように美しい仕上がりです。味わいも豊かなこの一酒をワイングラスに注いでいただきました。
このお酒、ホームページをみてもお酒の味わいについて一言も書かれていないほど味については非公開。これにもいろんな薀蓄をいれて飲む前に難しくさせるようなものをとっぱらって美味しさだけを楽しんでもらいたいという今代司酒造の願いが込められています。ここでも中身は非公開ですがパッケージに恥じない味わいが一瓶に込められています。

お楽しみ抽選会を楽しむ

  • お楽しみ抽選会
  • お楽しみ抽選会

 今宵も選りすぐりの景品を揃えた抽選会で締めくくりました。本日味わった野菜や今代司酒造特製のお酒やグッズ、さらにはさん喬師匠のサイン色紙など嬉しい賞品が目白押し。
番号を呼ばれるごとに半券を片手に客席は大盛り上がりです。当選されたお客様は予期していなかった手持ちの番号に「わっ」と思わず声を上げ、隣のそのまた隣のテーブルまでもが手を叩いて喜ぶといった場面も生まれる楽しい一時でした。

  • お楽しみ抽選会
  • お楽しみ抽選会
  • お楽しみ抽選会
  • お楽しみ抽選会

 また舞台脇では、前回人気で早々に売り切れてしまった人気のお野菜の販売や、今宵を飾るお酒の販売も加わり東寄席は最後の最後まで大盛り上がり。秋の夜長を楽しむ一興をお楽しみいただきました。

お楽しみ抽選会

  さて次回は2017年10月12日(木)、東寄席 柳亭小痴楽、神田松之丞 二人会です。どうぞお楽しみに。

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