演舞場発 東寄席 第二十九回

演舞場発 東寄席 第二十九回 2017年8月28日(月)

 本日は『第二十九回落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』にお越しいただき、誠にありがとうございました。
『第二十九回 落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』入船亭扇遊

 この会は場所柄、新橋の料亭で食事をしながら落語を嗜むという粋な企画で、普段は劇場の大食堂となる場所を料亭の大座敷に見立ててお楽しみいただいております。
ここ東寄席に初めてのご出演となります人気実力を兼ね備えた入船亭扇遊師匠にご登壇いただき、同じく落語会初お目見えの茨城・木内酒造のお酒が引き立てました。江戸東京の伝統野菜にTYファームさんの朝どれの野菜、新橋が誇る肴膳が今宵の会をより飾ります。一流の芸と味覚、最高の一興を振り返りご紹介いたします。

開演

本日の江戸東京野菜 TYファームの「寺島なす」

 東京の青梅で、江戸時代から続く種を継いで無農薬で野菜を作るTYファームさん。今夜は採れたての「寺島なす」を提供してくれました。

普通よりも小さいその茄子への思いをTYファームの島田さんが語ります。「昔は2月3月の寒いうちから布を湿らせてその中に種を入れて、腹巻の中に入れて体温で発芽させたものを育苗させて、俺の茄子が一番だ!初物だ!というふうにして売っていたんですよ。」大きい茄子が市場で出回る中で、寺島なすは大きくしてしまうとボケナスといわれるようにツヤが全くなくなってしまい新鮮には見えないのだそう。

寺島なす

 たくさん枝分かれして小さい実をいっぱいつけても、すぐ色ツヤがなくなるのでやめていく農家が多いのだとか。それでも昔から日本にある品種なので高い志をもったものだけが作りつづける野菜です。「昔の江戸時代の人たちってこういうものをありがたく食べていたんだなと想像しながら食べてほしいのですが、美味しいビールが横にあるので小皿の中には残ってないですね。」と話す島田さんに客席からは「ないわよ!ちょうだい」という声も。今 年は雨が多いのでやっと出来上がったその茄子は皮づきもよく煮汁をたっぷりと含ませるとろけるおいしさです。冷えた常陸野ネストビールと合わせて会場は笑顔に包まれます。

本日の落語演目

開口一番 『道具や』入船亭遊京

  開口一番は扇遊師匠のお弟子さんで2015年に二つ目に昇進した入船亭遊京さんがご登壇。人当たりが良く、語り口調はソフト。すでにファンも多くいらっしゃいます。枕では、80日で日本一周をした中国の友人となんと同じ80日で中国のあの大陸を一周したとか。「80日も暇な若い人がいま日本にいませんし、師匠に相談したら止めてはくれずに行ってこいと言われました。」中国での旅の話しで大いに会場和ませ演目の『道具や』へ。ぼんやりとした男、与太郎の登場は遊京さんの口調に似合い、可笑しさを誘います。言葉は通じないがどこか憎めない与太郎の道具屋に目尻を下げた客席が笑いと拍手で包みました。

一席目 『厩火事』入船亭扇遊

入船亭扇遊

  続きまして今宵の主役、入船亭扇遊師匠の登壇です。演目は『厩火事』。

「(東寄席は)仲間内では有名な落語会でとにもかくにもお客様が素晴らしいそうで。あの遊京の話しをあんなに一生懸命聞いてくださるんだからいいお客様でございますな。」と満面の笑みの扇遊師匠、早速ユーモアで会場を沸かせます。

扇遊師匠は10年ほど前に大銀座落語会の最終日に演舞場で『勧進帳』の鹿芝居をつとめた経験があり、冒頭では懐かしい芝居での経験を謙遜されながら当時のキャストや今は亡き坂東三津五郎氏の監修であったことを語りました。会場は関心したり途中笑ったりしながら耳を澄ませます。「あれは芝居だから大きな舞台ですが、芝居とは違って落語というのは大きな会場はダメですな。東京ドームのマウンドでハイビジョンがあっても」といって聞き入っていた会場はまた吹き出すように笑い、「四畳半だと近すぎますな。ちょっと色っぽい。一人だけだと税金の申告みたいです し、ではどんなサイズがいいっていうと、、、やっぱりこのくらいのサイズなんですな」良い感覚の間と聞かせ上手。謙遜もユーモアを含み、淀みない心地の良い低音。粋な口調は東寄席の観客を良い心地に引き寄せます。
扇遊師匠といえば落語協会の理事ですが、高座と客席の角度を感じさせません。

入船亭扇遊

「呼ばれたらわたしはどこへでもいきますよ」とスッと懐に入るように、客席との距離をそれは自然に丁寧に縮めます。知らずしらずのうちに客席もこの初登壇の扇遊師匠に釘付けです。「生の落語会で開きたいといってお誘いいただくんですが、先方も何を用意したらいいかわからないという方もいらして、そんな時『ちょっとした高い台があってそこに座布団一枚おいてください、それで結構でございます』とお伝えすると予想通り10枚用意されてますね」といって笑わせる。
「今度は座布団の前に物足りないか殺風景かと前をカップ酒や花瓶にお花やバナナやリンゴまで飾ってくださってなんだか仏壇のようになった」お気持ちだけでありがたいと言って大いに笑わせます。
阿漕の無い、心地よい笑い。人柄の良い扇遊師匠と客席の間に結ばれる縁と縁、それが大きな大きな笑いと繋がって、演目の『厩火事』では夫婦の縁を描きます。

 登場するのは働き者の女房と道楽亭主。しかし二人は大喧嘩で妻は離縁を考え仲人に相談します。本当に大事なのは女房の体か、亭主の瀬戸物か。亭主の大事にしている瀬戸物を割って本当の愛を確かめるといった話しは笑いあり、人情もあり。師匠の語り口調が程よく客席の心に染み渡ります。会場は温かい涙をほろりと流して泣き笑い。感動の拍手で一席を終えた師匠を見送りました。温かい気持ちは仲入りまでも話題となり、しばらく客席では和やかな時間を迎えます。

〜仲入り〜

二席目 『試し酒』入船亭扇遊

入船亭扇遊

  仲入りの菊盛の酒がふわりと客席を染めたころ、二度目の出囃子が鳴り響き、拍手とともに着物を着替えた扇遊師匠があがります。つくなり「そんなに長くはかけませんからね」という師匠にすかさず「たっぷり」「長くやって!」と客席から掛け声があがります。二席目の演目は『試し酒』。

入船亭扇遊

 枕ではそれほどは酒を呑まないと言われていた師匠が5升もの酒を飲み干す男(久蔵)を演じます。盃は底に穴の開いた可杯(べくはい)。「武蔵野」と底に書かれた盃は「野を見尽くせない(のみ尽くせない)」というシャレをきかせたもの。一升も入る大きな盃で高座には大きな盃と大きな一升瓶5本とズーズー弁の男が師匠と重ねて浮かぶよう。
はじめの一升、一思いに飲み干す男。しかし一升がどれほどたっぷりと注がれたものかをここで実感させられます。盃に口をつけ、長くとった間の中で、師匠の喉から発するごくりゴクリというだけの響く音。少し酔っ払いそうなほどの感情移入が生まれます。

「ゴクッ ゴクッ ゴクッ」

盃と師匠の頭が上へ上へと傾き、最後は盃とともに傾斜を早め、ゴク,,ゴク,,, という間がはやくなる。

つかの間、会場がしんと静まり目を見張りました。
飲み干す頃、一拍おいてその一杯だけで思わず驚きの歓声と拍手が起こりました。

入船亭扇遊

 久蔵の一呑の大きさを感じることで大男のような存在感をより感じさせ、会場の好奇心の目がよりいっそう高座へ向けられます。その後は陽気に飲み干す久蔵の呑みっぷりを楽しんでみたり、 目を見張ったり。客席からは一杯飲み干すごとに感嘆の声があがりました。なんて陽気で楽しい時間でしょう。最後はさすがのザルの飲ん兵衛もしゃっくりをして辛そうにゴクリ、ゴクリ。呑んでいないのに客席まで目が回りそう。5升を飲み干す。ため息と拍手が同時に上がります。そして、あの飲み干した5升目のお酒が実は久蔵には10升目の酒というサゲ。「これはやられた」と拍手が止みません。落語と日本酒と伝統野菜を楽しむ会にぴったりの一席をお楽しみいただきました。

日本酒を楽しむ会

本日の日本酒「茨城・木内酒造」さんのお酒

演舞場の美味を楽しむ

 今回の日本酒を楽しむ会は落語会同様初お目見えの茨城・木内酒造さんにお越しいただきました。関東では一番酒造の多い茨城県。木内酒造さんは1823年(文政六年)創業の蔵元さんです。日本酒以外にも原料にこだわった地ビールを製造しており、その美味しさは世界五十カ国で認められております。本日はそのこだわりの地ビールと日本酒について木内酒造の國井さんと杜氏の山田さんにお酒のお話を聞かせていただきます。

お酒を楽しむ

お酒を楽しむ

(写真右から)

○地ビール 常陸野ネスト ホワイトエール
暑い日に口当たりのいいホワイトエールを食事とご一緒に。 フクロウのマークのビールは、国内外問わず世界50カ国以上で呑まれているビールです。 一番売れているのはアメリカで、ヨーロッパやアジアでも親しまれています。海外で見たことがあるビールで日本のものとは思わなかったと言われることも。アメリカで一番はじめに金賞を受賞したビール。98年、99年のジャパンビアカップで2年連続金メダル、2000年と2004年ワールドビアカップ金メダル、2002年英国 The Brewing Industry International Awards金メダル及び部門総合チャンピオンに輝いた自信作です。

○菊盛 純米吟造り
グリーンのボトルの「菊盛 純米吟造り」は一番の定番商品。吟造りの名の通り、お米にこだわり、酵母にこだわり醸造した純米吟造り。純米で手間をかけてつくっているので香りもありつつ、酒やけもせずに晩酌酒として飲める贅沢な酒です。

○菊盛 純米銀城うすにごり酒 春一輪
しぼりたての酒を酵母が生きたまま瓶詰めしました。にごっているのでまだ酵母が生きて二次発酵 をすることでシャンパン風のガスが含まれます。夏にちょうどいい冷やしてのむと美味しいさわやかなお酒。

○菊盛 純米吟醸 本生酒 夏初月
夏とついているだけあって、夏にぴったりなさわやかな酒。瑞々しいフレッシュな味わいが特徴です。 米を55%まで磨いて手間暇かけて丹念に仕込んだ純米酒はすっきりとした飲み口と米の旨味を楽しめます。 木内酒造のお二人がその美味しさをお客様のもとへ一席ごとに注いで届けました。

お楽しみ抽選会を楽しむ

お楽しみ抽選会

 今宵も選りすぐりの景品を揃えた抽選会で締めくくりました。また今回は野菜やお酒の販売も加わり、今日の思い出をご家族やお友達に分けてあげたいと楽しみをお持ち帰りされる方もいらっしゃいました。今宵も大いに盛り上がり、お楽しみいただきました。

お楽しみ抽選会

 さて次回は2017年9月28日(木)、東寄席も第30回 柳家さん喬師匠の独演会です。どうぞお楽しみに。

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