演舞場発 東寄席 第三十七回 2018年3月14日(水)
第三十七回『落語と日本酒と伝統野菜を楽しむ会in新橋演舞場』にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。
隅田川沿いの大寒桜も咲き始めようやく春めいてまいりました。今宵は、新橋演舞場 東寄席で は三回目のご出演となります 春風亭一朝師匠に高座をお勤め頂きました。江戸前の芸が引き立つ 粋な噺家を楽しみに今宵もファンのみなさまがお集まりくださいました。
一朝師匠の高座をお楽しみ頂きながら、新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ演舞場のお料理と、地産 の江戸野菜、酒は東京青梅の小澤酒造さんの銘酒とともにお楽しみいただきました。それでは振り返りご紹介いたします。
演舞場の味覚を楽しむ
本日の演舞場のお料理
新橋の名店、料亭金田中の流れを汲む新橋演舞場調理場、斎藤正達調理長による特別献立をご用意いたしました。
酒の肴膳は、先付けにこの時期のしんとりの煮浸し。また、澤乃井のお酒に似合う烏賊の塩辛を。漆色の弁当箱の中には筍入りのメンチカツや海老芝煮に花蓮根。筍の胡麻和えに葱入りの卵焼き。このほか鶏松風、オクラと桜海老のお浸しなど、春を感じる品々。煮物は、大根、人参、焼湯葉、がんもに蕗、桜麩の 煮物といったそれぞれに食感を替え、出汁を含む優しい味わい をご用意。向付は、鮪に鯛・・・と、どれも澤乃井のお酒がすすむ味わいです。
利き酒の会では、主菜には桜色の鮭に菜ばな入りのマヨネーズ焼きを。御食事には東京は足立区名産のあだち菜うどんと小松菜の煮浸し添え。さらに留椀には河豚心情に筍、若布、ゆずをあしらいました。最後は、清涼感のある桜ゼリーとミックスフルーツで締めくくり、さまざまな春の味覚をお楽しみいただきました。
江戸の味覚を愉しむ
OmeFarm「しんとり菜」と「あだち菜うどん」
この会に何度かいらした方にはお馴染み、OmeFarmの 江戸東京野菜と丸眼鏡が特徴の島田さんですが、急用のため 農場長の松尾さんが代わって本日のお野菜を紹介してくれました。
しんとり菜といえばこの東寄席で昨年もちょうどこの春時期に登場したアブラナ科の葉物野菜。ちりめん白菜と呼ばれる野菜はシャキシャキとした軽い歯応えが小松菜のようでいて、目立つえぐ味の無い 美味しさが評判の野菜です。
ビニールハウスのように 温室で育てる野菜では無いため「この冬の寒い時期を耐えてよく育ってくれました!」 と松尾さん。その笑顔から野菜の収穫は「恵み」だと気付かされます。野菜の収穫期ではないこの時期。貴重な美味しさを、先付けのお浸しと、東京は足立区名産のあだち菜うどんと一緒に煮浸しあえにしてお召上がりいただきました。
落語を楽しむ
開口一番『黄金の大黒』春風亭一花
開口一番は一朝師匠、八番弟子の春風亭一花さん。今回で四回目のご出演で前座では最高回数です。一朝師匠で三回、文菊師匠で一回です。そんな一花さんもついに二つ目の昇進が決まり、それを聞いた客席から思わず「おお」という感嘆の声があがりました。師匠の前座としては本日この東寄席の高座が最後のお勤めです。
以前は足元の紫色の座布団がよほど大きく見えるほど細 い一輪の花のようでしたが、よほどこの一年努力を重ね てきたのでしょう。堂々と見えて、立派な一席を成し遂げていました。 『黄金の大黒』の長屋の連中の素っ頓狂な口ぶりと老い た大家の人間模様を描き大いに楽しませました。最後は、お辞儀をして、師匠の座る座布団を丁寧に四隅を直し壇上から立ち去る姿。優しく見守る客席から拍手が沸き起こりました。
一席目『蛙(かわず)茶番』春風亭一朝
「待ってました!」の掛け声にあわせ、お待ちかねの一朝師匠の登壇です。 演目の「蛙茶番」にあわせ枕では、一朝師匠のもうひとつの顔、笛吹として知る歌舞伎舞台の話 題。歌舞伎の世界では客席から「音羽屋」「播磨屋」「成田屋」、、など大向うが役者の屋号を呼ぶというのが慣わしですが、落語の世界でも噺家の出身の地名を呼ぶ習慣があります。 「まってました!黒門町!」のように、知れた師匠は稲荷町、柏木、矢来町の町名で声があがり ます。そんな様子を「幹部はみんないいところに住んでいる」といって笑わせます。「わたしなん てね、掛けてもらいたくない。『まってました!都営住宅三号棟!』」
すっかり会場が和み舞台を描いたところで、演目の定式幕が裾を引いて開いていきます。
町内の芝居で天竺徳兵衛の「忍術ゆずり場」をやろうという話し。人手が無いなか、『舞台番』がいないので、建具屋の半公にさ せようとなるが、ふてくされてやりたがらない。仕方が無いのでありもしないのに半公が片思いの小間物屋のみいちゃんが「役者なんかしないで、人の嫌がる舞台 番をあえてやるところがステキと言ってた」と囮に使って舞台番をさせようと策略します。
これが効果てきめん。半公のほうも、好きな女の子が見に来ると知って、舞台番をしてここは江 戸っ子の粋な男前ぶりを発揮して、尻を捲り得意の縮緬(ちりめん)の褌(ふんどし)を見せてやろうと企み、そうと決まれば善は急げと湯屋に行く気合の入りよ う。ところが、大事な褌を湯屋に忘れて飛び出します。
師匠の粋な江戸前節のはいった、バレ噺。褌を忘れて尻を思い切り捲る場面など思わず笑わずにいられません。ご婦人も「やあねえ」といいながら思わず吹き出し、会場は大笑いの一幕でした。
〜仲入り〜
二席目『抜け雀』春風亭一朝
二席目も「待ってました!」「たっぷり!」の掛け声で 迎えられる一朝師匠。 ここで師匠「一朝懸命がんばります」と挨拶すれば、待っ てました!そうこなくっちゃと会場からはまた大きな笑いと拍手喝采が響きます。
春は行楽シーズン。今のように“車”とつくものが無い時代、昔は歩いて旅をした人が多かったと か。そんな旅歩く人を勝手に駕籠(かご)に乗せ、女性などは宿場女郎へ売られるといった“駕籠 かき”といった被害があったんだそう。残念な話しです。時代背景を語りながらまたも、すっと滑 らかに演目へ。
小田原の貧乏宿で働く夫婦が泊めた客。これが散々大酒を食らって、聞けばなんと一文無し。 ガミガミと文句をいうカミさんに押されて主人が渋々男の元に催促にいくと男が宿代代わりに屏風に雀の墨絵を描くという。躊躇った主人でしたが、なんとこの墨絵の雀、のちに屏風から飛び 出し隣の家の屋根に止まり餌をつついて屏風に戻ったというなんとも不思議なお噺です。
この話しを聞いた人々が屏風をひと目見たいと押し寄せる中、 客の一人に「屏風には止まり木の絵が無いからこの雀は疲れて死んでしまうよ」と妙なことを言う男がいて屏風に駕籠の絵を描き足すと雀は駕籠の止まり木に止まって羽を休めたという。実はこれを描き足した男は雀を描いた男の父親。なんとも親に「駕籠かき」をさせてしまったというサゲだ。
ここで客席から思わずああ、という感嘆の声。 枕で覚えた「駕籠かき」のフレーズがこんな終いに出てくると は。しっかりと感動を味わったという興奮の声と拍手に包まれました。
江戸前で知れた一朝師匠の、お客を置いてけぼりにしないこんな粋なはからいがますます格好良く、男前一朝節に誰もが感心しきりで楽しみました。
銘酒を楽しむ
今宵のお酒を提供くださったのは、東京は青梅の老舗『小澤酒造』、東寄席では二度目の登場です。
元禄十五年、実に三百余年を超える歴史ある酒蔵で、東京は9ヶ所に蔵をもっています。名の『澤 乃井』が水をあらわすように酒の原料が半分以上「水」から生まれており、きれいな水でなけれ ばきれいなお酒ができないという信念で作られています。ボトル のキャップにもきれいな水の元でないと生息できない“サワガニ” のイラストが印字。澤乃井のこだわりの信条の証です。
現在23代目の小澤酒造の取締役、小澤さんより本日のお酒 四種をご紹介いただきました。
(写真右から)
澤乃井 純米吟醸生酒 蒼天
生酒らしく、華やかでフルーティさが特徴。米も45%も磨いているためその味わいは非常に上品 に味わえる純米吟醸酒。
澤乃井 花見新酒
春が訪れポカポカ陽気に召し上がってほしいという願いのもとに冬時期に仕込んだ花見新酒。こちらも華やかながら、後味はすっきり辛口。食事にあう一酒。冷やしても常温でも美味しい。
澤乃井 生・純米吟醸 東京蔵人
「東京は野菜をはじめいろいろな食材に恵まれています。その地産地消のひとつになりたい。」 と小澤さん。昔ながらの生酛づくりで作られたこのお酒はまさに東京の文化をまたひとつ形にし た一作なのではないでしょうか。手間をかけて、職人の勘と酵母の自然による力を使って発酵し た天然発酵。ヨーグルトのようなほのかな酸味とミルキーな旨味を楽しめます。
澤乃井 元禄酒
澤乃井の創業の「元禄」。このころの酒造りは米を10%ほどしか磨かず、生酛づくりで作られて いたのだそう。昔ながらの工程で、現代でも楽しめる逸酒ができました。薄い飴色の茶を帯びた 酒は特徴ある甘酸っぱさ。じっくりと向き合いたくなる旨さです。
お楽しみ抽選会
会を締めくくるのはお楽しみ抽選会。 今宵もお集まりいただいたのお客様にさまざまな景品をご用意しました。
OmeFarmさんからはお野菜のお届けセット目録と、都内で採れた味わいを替えた季節の蜂蜜 を。澤乃井酒造さんからは、澤乃井を染み込ませた“エイヒレ”、御嶽汁のフリーズドライセット、 酒粕やチョコレート。あだち菜学会のあだち菜パスタなど、本日提供してくださった方から手渡しでプレゼント。あげる方も当選された方も笑顔の行き交う一時でした。また、新橋演舞場より 当会場で開催されたなでしこ芸者衆の千社札シールセット。最後に春風亭一朝師匠の色紙を。
抽選に当選された方々の嬉しい声と拍手で今宵の宴を締めくくりました。
次回は2018年3月30日(金)柳屋権太楼独演会「落語と日本酒と伝統野菜を楽しむ会」です。どうぞお楽しみに。