演舞場発 東寄席 第三十九回 2018年5月28日(月)
第三十九回『落語と日本酒と伝統野菜を楽しむ会in新橋演舞場』にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。
新緑がまぶしい季節となりました。
今宵「東寄席」には四回目のご登壇となります春風亭一之輔師匠を高座にお迎えして思う存分ご堪能いただきました。
一之輔師匠の落語とともに、新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ演舞場のお料理と、佐賀は文久元年に水車業で創業した老舗、天山酒造さんのお酒をお楽しみいただきました。
それでは振り返りご紹介いたします。
演舞場の味覚を楽しむ
本日の演舞場のお料理
新橋の名店、料亭金田中の流れを汲む新橋演舞場調理場、斎藤正達調理長による特別献立をご用意いたしました。
酒の肴膳として、先付けには五月の新緑を感じるだだ茶豆のお豆腐と小海老を添えて。
八寸には酒のすすむ蓮根海鮮真丈挟み揚と青唐辛子入り帆立の塩辛、稚鮎の磯辺揚げになすの味噌和え、鶏もも肉塩麹焼き、大和芋を短冊揚げなど、初夏の暑さに程よい塩梅の肴をご用意。また、さっぱりとしたぜんまい、大根、キャベツを使った三種のナムルもご用意しました。
煮物は牛すじの煮込み。向付には薬味をきかせた旬の鰹をたたきでご用意。
利き酒会には、鰆の照焼に白く可愛らしい花蓮根の甘酢漬けを添えました。
四種のお酒がテーブルに並ぶ酔い時には、すこし塩味とやわらかな桜の風味漂う炊き込みご飯と沢煮椀を。水菓子は葡萄ゼリーとミックスフルーツ。
お酒とともにゆっくりとお楽しみいただきました。
落語を楽しむ
開口一番『一目上がり』春風亭 きいち
開口一番は、一之輔師匠のお弟子さん、春風亭きいちさんが前座を勤めます。
東寄席では今宵で三度めのご登壇です。
なんといっても役者センスのあるきいちさん。毎度挨拶も枕もそこそこに、潔くスッと演目へ運びます。今宵は170余名の観客数。それにも物怖じせずに『一目上がり』で高座をあたためます。
落語の世界に出てくる人物というのは、現代ならちょっと距離を置かれそうな教養が無く図々しい人物というのが、面白いもの。
特にこれにでてくる短気で知れた八五郎のはっつぁんは、江戸っ子さながらのせっかちな気質と「人様に良いとこ見せたい、褒められたい」という貪欲さが面白い。相手が和尚だろうが、ご隠居であろうが厚かましい。けれどご隠居方も、はっつぁんの扱いを良く知っていて、どこへいってもトントンと落とされる。シンプルながらに前座、真打ちを問わず愛されているのがよくわかる痛快な古典落語です。
落語家としては、時代を語るに調度良い情緒ある低音のトーンとリズム感を持ち合わせたきいちさん。会場を笑い沸かして、見事に師匠の前座を温めました。
一席目『夏泥』春風亭一之輔
さつまさの出囃子が響くと満席の会場の期待の眼差しは、最高潮に高まるように楽屋から出てきた一之輔師匠へ向かいました。椎鈍色に薄い梅鼠色の着物を合わせた男前落語家が高座に上がると満員の会場の熱気は立ちのぼるように拍手で迎えました。
登壇してまもなく、小さく渋い声で冷ややかに始めるのが一之輔流。
一之輔師匠の落語を知る人ならここから徐々にくすぐりが入るのを感じずにはいられず、その様子にぐっと引き込まれてしまいます。
枕ではまさに旬の時事ネタ、危険タックルで話題のアメフト部の話題で引き込みます。なんと一之輔師匠は日大出身。落研の部内同士で「あいつらを潰せとやってましたよ」と沸かせました。
冒頭でニヒルに語らう一之輔師匠が、気づけば枕の語らいで客席との距離をぐっと縮め、演目の『夏泥』へ。
『夏泥』は貧乏長屋に住む男の家に入った泥棒が、いつの間にか情にほだされ、お金を出して「これで人生やり直せ」と懐からお金を工面してやるという噺。まさか盗人の泥棒がお金を置いていってしまうので『置泥』というタイトルでも呼ばれています。泥棒から金を巻き上げる一枚ウワテな男の噺に終始笑いが止みません。
三つ折りにした手ぬぐいを片側開いて財布に見せかけ、出し渋りながらお金を男に出す師匠の泥棒役。会ったことも無いその泥棒と男の世界観が、古典落語の敷居など取っ払って眼の前に浮かぶよう。財布の底の底にあるお金まで泣く泣く渡した上に、着物の内縫いに隠した「もしも」の時の大事なお金まですべて男の口車に乗せられ取られてしまうところなど、客席からも「ええ?そんなところにもお金を持ってたの?」と仰天と笑い。振り返って思い出すだけでも笑ってしまいそうな仕草です!
感嘆の声と笑いの繰り返しで、会場はどっぷりと一之輔ワールドに浸ってしまう一席でした。
〜仲入り〜
二席目『居残り佐平次』春風亭一之輔
仲入りの間も客席からの期待を寄せた一之輔師匠。二席目も盛大な拍手で迎えられます。
「落語は自堕落な人の噺が面白いわけで、聖人君子の噺なんて面白くないんですよ」と始まる二席目は、またもほろ酔いのこの会場に心地よい『居残り佐平次』。なかなかの人物が登場します。
貧乏長屋に住まいながら、金もないのに道楽をしたいと品川の遊郭に行くという噺です。
この噺、落語の言葉でいう“おこわにかける(計略にかけて人を騙す)”お話ですが、このおこわにかける話しも言葉の意味がわからなければ面白くないわけで、なかなか現代では使わないことばなのであえてこのサゲを使わない落語家も多いお噺といわれています。それでも『居残り佐兵衛』の旨味を逃すことなく満足させてくれるのが一之輔師匠の凄さ。
古典落語を物ともせず現代人と同じ目線で語る、一之輔流の落語に絶えず会場中が絶えず笑いに包まれました。
Ome Farmの無農薬を楽しむ
本日のお野菜は、「スナップえんどう」。 いつもは江戸東京野菜を紹介していますが今宵はOmeFarm採れたての無農薬野菜をお楽しみいただきました。 お野菜の紹介は、東寄席ではおなじみのOmeFarmの島田さん。 スナップエンドウは11月頃に種を植えて収穫期間5月から6月と非常にが短く、まさに今が旬のお野菜。
「いんげんとちがって、皮もやわらかくておいしく食べられます。畑でとってそのまま生で食べると甘くておいしいですよ。」と畑での様子も教えてくれました。
スナックエンドウか、スナップエンドウかどちらが正しいかよく話題に上がりますが、実はどちらも正しいのだそう。収穫してスナップのような音がする野菜をスナックお菓子のように手軽にポリポリいただけるお野菜は、食卓の幅が広がりそうです。夏の野菜は体を冷やす効果があるので、暑い時期にはピッタリのお野菜。今宵は、鶏むね肉とのゴマドレ和えでお召し上がりいただきました。
お酒を楽しむ
本日、落語と共にお楽しみいただく日本酒は初登場、佐賀の天山酒造のお酒です。
天山酒造は、文久元年(1861年)水車業で創業しました。現在の造り酒屋としても明治八年(1875年)からの歴史となりますので実に143年の歴史を誇る老舗の酒造です。
九州というと焼酎のイメージがありますが佐賀県は九州の中でも北部にあって、もともと米作りがさかんな地域。この時期十万匹というホテルが飛び交う美しい自然が自慢です。社名にもある天山の中腹から清冽な湧き水を専用水道で蔵まで導き使用しています。
天山酒造は品質第一の酒造りの姿勢で、原料となる酒米栽培にもこだわり、自社で田んぼを持って山田錦やレイホウなどを栽培しており、「天山酒米栽培研究会」を立ち上げるほどこだわりの酒造りをしています。数々の受賞歴もある実績のある銘酒です。
(写真左から)
七田 純米無濾過原酒
米の甘さを感じる爽やかで優しい香り。口に含むと綺麗な旨味とジューシーな味わいで、食事に合わせても邪魔をしない美味しさが特徴です。
天山 純米吟醸
地元佐賀の天山酒米栽培研究会の生産者の契約栽培「山田錦」を55%まで磨き上げ、蛍の名水天山山系の伏流水で仕込んだ一酒。 七田純米無濾過原酒よりもより、フルーティと辛口を兼ね備えバランスの良い旨味に仕上がっています。
七田 夏純米 無濾過
利き酒会に振る舞われた夏純米は、佐賀で米作りが不作だった時期に山形のお米を使用してできたお酒。アルコール度数14度ですが、しっかりとした旨みと酸がうまれ夏らしい味わいができました。
七田 純米吟醸無濾過原酒
繊細でみずみずしく優雅に香る吟醸香が特徴。
こちらはワイングラスに注いでいただきました。
お楽しみ抽選会
最後は東寄席恒例のお楽しみ抽選会です。本日協力いただいた春風亭一之輔師匠、Ome Farmさん、天山酒造さん、そして新橋演舞場の協力でとっておきのプレゼントをご用意いたしました。
一之輔師匠の落語と、利き酒の会ですっかりと陽気を帯びた会場は、元は見知らぬお隣も、袖振り合うも多少の縁。お隣席の当選も一緒になって喜ぶ姿も!
最後は誰もが、にっこりと笑いあう、幸せな満月の一夜を締めくくりました。
次回は2018年6月29日(金)柳屋さん喬師匠の独演会「落語と日本酒と伝統野菜を楽しむ会」です。
どうぞお楽しみに。