演舞場発 東寄席 第四十三回 2018年9月29日(土)
第四十三回 『落語と日本酒と伝統野菜を楽しむ会』にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。
秋風が立ちはじめ、過ごしやすい気候となりました。
今宵、東寄席には四十三回目にして初めて立川流から登壇者をお迎えすることが出来ました。その高座には立川流唯一の笑点Jr.メンバーと活躍していたこともある実力派、立川流 生志師匠にお勤めいただきました。
生志師匠の高座をお楽しみいただきながら、新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ演舞場の調理場でご用意させて頂きました酒の肴とお料理でおもてなししました。
また、今回の日本酒を楽しむ会では、落語会同様初お目見えで生志師匠と同郷の福岡・山口酒造場さんの四種のお酒とともにご賞味いただきました。
それではその模様の振り返りをご紹介いたします。
演舞場の味覚を楽しむ
本日の演舞場のお料理
今宵もお食事は、新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ演舞場の調理場でご用意しました。
酒の肴膳としてみやま小かぶ菜のお浸しを。
八寸にはこの季節らしく、小松菜をピーナッツ和えに。しめじは柿の白和えで。
玉子焼 紅生姜の真丈串刺しや、鶏胸肉と胡瓜のポン酢和え 南瓜天 鳴門金時芋天 青唐 茄子の鶏豚合挽肉はさみ揚げを添えました。
煮物はかぶのカニ入り銀あん掛けに、人参、焼き湯葉、茄子素揚げ、秋らしく紅葉麩も一緒に。
向付には鮪と烏賊そうめん。
日本酒を楽しむ会では、海鮮グラタンと花蓮根、香りの良い無花果をワイン煮添えに。
ご飯は焼きおにぎり酒茶漬け。
最後に、甘い水菓子、水ようかんをお召し上がりいただきました。
落語を楽しむ
開口一番『寿限無』春風亭 昇咲
本日の開口一番は、春風亭昇太のお弟子さんで、春風亭 昇咲さんが温めます。
昇咲と書いて「しょうさく」と読みます、とエピソードを交えてしっかりとアピールします。
演目は『寿限無』。落語をあまり知らない人でも聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
生まれた子供が元気で長生きができるよう付けられた縁起の良い長い名前のお噺。
近所の子どもと喧嘩して“こぶ”を作った子どもが親に言いつけにやってきます。
「じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ~(略)に頭ぶたれたよ」「なーに?じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの~(略)にぶたれただって?」
名前ひとつであれよあれよと日が暮れそう。そうこうしてたらこぶ も一緒に引っ込んだというサゲです。明るく軽快な早口言葉で客席を和ませました。
一席目『反対俥』立川生志
さていよいよお待ちかね、軽快な出囃子とともに立川生志師匠の登壇です。
今宵の天気は台風間際にも関わらず、待ちに待ったファンが集い、満席で師匠を迎えました。立川流としてはここ東寄席は初めての登壇。ここで「立川流看板」を背負って繋げたいと意気込みも滲ませます。
そんな師匠がいまや立川流で真打ちにとなり早10年ですが、談志師匠のカバンを持った時期も長い師匠には思い出も数々あるようでー
談志師匠と生前立ち食いの蕎麦屋に入ったときのこと。「お前は何がいいんだ」と聞かれ、遠慮しながら月見そばを注文したところ、一杯の月見蕎麦だけが談志師匠の前に置かれたのだそう。自分は当時まだ弟子の身分で食べられないんだなと思っていたところ、片側で師匠が啜って食べながら、「早く食えよ」と、丸いどんぶり椀の空いた片側を指してこられた。まさか二人一緒に啜るとは思わなかったけれど止む無く男二人で一杯の蕎麦を頬を近づけながら啜ったそう。「これがまた、蕎麦も最後の方になると談志師匠のすすった蕎麦の一本が自分のとつながってしまって、恥ずかしくなってえいっと噛み切ったりしてね。」
バンダナ姿の談志師匠とむっくりとした生志師匠が顔を近づけながら口をすぼめて蕎麦をすする姿が浮かび、会場は終始ケタケタと笑いが止まりません。
存分に枕で聞かせ、笑わせ、演目『反対俥』へ。
上野の汽車に間に合うために俥屋を止める男が登場します。
実は師匠、枕では一席設けるほどたっぷりと聞かせた後の『反対俥』です。反対俥といえば、演者も体力勝負の演目にですが、アラヨッアラヨッと軽快にジャンプしながら走り出したら止まらない威勢のある俥屋を身軽に演じます。知らぬ間に客席には猛スピードに風が駆け抜け、息つく暇無しドタバタ劇の行き着く先は津軽まで。駆け抜けながら、笑いも一緒に取んでしまうというまさにジェットエンジン級の技!!
途中おばあさんを轢き、芸者を川に落とし、もうてんやわんや。「芸者上げるくらいなら俥屋なんぜやってないんでい」といったここでは古典のオチも踏襲しているあたりも生志師匠らしく気が利いた上手さ。パワフルな一席で会場は大満足といった様子でした。
〜仲入り〜
二席目『紺屋高尾』立川生志
仲入りを挟み二席目が始まります。期待高まる観客席からは「待ってました」と歓声も響きます。本日生志師匠が選んだ二席目は「これまでにまだ東寄席では演じてこなかったものを選びました」という嬉しい演出です。
演目は花魁の最高位である高尾太夫と、一介の紺屋の職人との純愛をテーマにした『紺屋高尾』を。
身分の及ばぬ高尾太夫への久蔵の恋わずらい。紺屋の親方もはじめは親心で恋路を諦めさせようと「三浦の高尾が座敷に呼ぶにはどう見積もっても十両はかかる」と言ったものの、久蔵は三年遊びもせずに一心不乱に働いて高尾に会うために十三両もの大金を稼ぎます。
そんな久蔵の意気込みに、親方もいくらお金を積んでも紺屋職人じゃ、きっと高尾が相手にしてくれまいと、帯や羽織も揃えてお膳立てしてもらい、近くの医者にも一芝居うってもらいお金持ちのように見立ててもらってようやく憧れの高尾に会いに吉原に行くことに。
親方に教わった通り、すっかり腕に染まってしまった紺を袖に隠して、何を聞かれても「あいよあいよ」で通す久蔵。ついに高尾との夢心地の寝屋を共にします。
その場面を談志師匠さながら江戸っ子の口ぶりで、それはもう真面目だけが取り柄の一途で一生懸命な久蔵の想いを丁寧に描くものだから、会場はどこと無く微笑みながらも鼻をすする音が響く場面もありました。
秋の夜長にほっこりとした想いに浸り、会場は幸せなひとときに酔いしれた一席を楽しみました。
江戸伝統野菜を楽しむ
今回OmeFarmの島田さんにご紹介いただいた今宵のお野菜は「みやま小かぶ菜」です。
お料理ではお浸しにして登場しています。
みやま小かぶは、江戸時代に関東で栽培されていた「金町かぶ」と「樋の口小かぶ」とを自然交雑させ選抜・固定した小かぶ。今回のみやま小かぶ菜は、栽培している途中で実が大きく成るように間引きをしている菜っぱです。市場に出回らず、普段は農家の方しか食べられない貴重なものです。
販売しているお野菜にも入っていますが、小かぶを育てるのに葉をたくさん間引くそうで、この間引き菜がまた美味しいと、島田さん絶賛の一品です。
抑揚のある島田さんの一言にまた、会場の興味がぐっと湧き、仲入りや落語の後の時間には野菜の販売に多くの人だかりで賑わいました。
お酒を楽しむ
本日のお酒をご用意頂いたのは、福岡県の山口酒造場さん。
山口酒造場さんは1832年(天保3年)創業の蔵元さんで、現在の当主が2003年に家宝の天秤棒の伝達儀式によって十一代目を襲名し、2004年から「造るのはnipponのこころです」を指針に掲げ、日本酒製造業の枠を超え「nipponのこころ製造業」として日本のよいもの、日本人の素晴らしさを世に伝えたいと尽力してきました。また、酒米「山田錦」を自社で栽培し、梅酒製造においてはリサイクル事業にも取組んでいるそうです。
今宵の庭のうぐいすは五代目当主が一羽のうぐいすが庭の湧き水で喉を潤す姿を見て名付けたもの。それからおよそ百八十年の時を経て暮らしに寄り添うお酒を造り続けています。
それでは本日の四種を紹介します。
本日の日本酒(写真右から)
庭のうぐいす ピンクスパークリング 純米吟醸
瓶内2次発酵によりスパークリングを実現した純米吟醸酒。口に含むとほのかに酸味のあるフルーティな味わい。シュワシュワと立ちのぼる泡、お洒落なピンク色のお酒は華やかな乾杯酒にピッタリです。
庭のうぐいす 特別純米
スッキリとドライな味わいを表現した特別純米は、蔵に伝わる技を忠実に作られています。どんなお食事にも似合うお酒で、会場では「つい一杯」とお替りする様子が見られるほど親しみのある味わいでした。
庭のうぐいす 秋あがり 純米吟醸
上品な吟醸香と辛口ながら味わい深い芋のようなまろやかな旨味は、ほっこりとした秋の味覚を引き立ててくれる旨さ。ひと夏越して秋になる頃に酒質が向上していることを意味する秋の酒の褒め言葉を「あきあがり」というそうです。
庭のうぐいす 純米吟醸
最新の醗酵理論や醸造技術を積極的に取り入れ、現代にマッチした日本酒づくりをテーマに醸しています。香り・甘み・酸味ともにフレッシュな味わいが調和しています。和食、洋食を選ばずに楽しめるお酒に、会場は良い心地に浸るひとときでした。
お楽しみ抽選会
最後は東寄席恒例の「お楽しみ抽選会」です。
Ome Farmさんからはお野菜のセット、山口酒造場さんからはお酒や特製グッズをプレゼントして頂きました。 立川生志師匠からのサイン色紙は会場のファンをわっと沸かせるプレゼントとなり大盛り上がりのひとときでした。
今回も満員御礼となりました、大盛況のうちに幕を閉じた『東寄席』。
次回もどうぞお楽しみに!