演舞場発 東寄席 第十八回 2016年9月21日
毎回満員御礼の『演舞場発 東寄席』。第十八回を迎えます今回は、『落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』と題しまして、
『東寄席』二回目のご出演となります桂文治師匠をお迎えし、新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ会席弁当とお酒をお楽しみいただきました。
昨年で芸歴30周年を迎えられた文治師匠は、2012年の正に今日9月21日に末廣亭(東京都新宿区)にて『桂』の亭号で最も由緒ある大名跡『文治』を襲名されました。
ハの字眉の笑顔で明朗快活、本寸法の古典落語とパワーのある語り口が特徴で、十八番は酒呑噺。
ステージ裏から聞こえるお囃子の太鼓音に、今日はどのようなお噺が聴けるのだろうか、と胸が高まります。
開演前のテーブルにはすでに会席弁当が並べられ、大きな酒瓶が一本。表には『仕込み水』のラベルがあります。これは本日お越しいただきました平和酒造さんにご用意いただいたお水です。
酒造りの際に使われる水を『仕込み水(しこみみず)』と言いますが、お冷にこの仕込み水を準備するこだわりに温かいサービスの心を感じました。
そうこうしているうちに、本日一品目のお酒、『鶴梅の梅酒 すっぱい』が運ばれてきました。
日本酒ベースの梅酒で甘すぎずスッキリとした味わいと香り、その名の通りキリッとしたすっぱさが特徴の食前酒です。酸度は普通の梅酒の二倍強もあるそう。
一足先に、お酒とお食事を楽しみながら落語の開演を待ちます。
日本酒と江戸野菜への熱い想い
食前酒と食事を楽しんでいると、本日お酒をご提供くださった平和酒造さんを紹介するに至った経緯と今の日本酒について、神奈川県本厚木の望月商店・望月太郎さんがご説明くださいました。
本日のお酒、現代の若者に人気の日本酒『紀土(キッド)』と『鶴梅の梅酒』を造る平和酒造さんは、いま最も注目を集めている和歌山の若手酒造。
『東寄席』は「落語や食を通じて、日本文化・伝統を一度に楽しんでいただける会として若手に光をあてる」という趣旨で行っておりますので、
このイベントで紹介するにふさわしいということで、ご紹介くださったそうです。
本日のお酒
(写真右から順に)
・梅酒 すっぱい
・紀土 純米酒
・紀土 純米吟醸酒
・紀土 純米大吟醸
ところで、10月1日は『日本酒の日』だというのをご存知でしたか?
仕込み方の一つ・寒造りは10月からお米が入ってきて酒造りが始まるため、10月1日は『酒造元旦』とも言われ、最近では乾杯フェスなどイベントも盛んに行われています。
美味しいお酒が増え、日本酒が黄金世代と言われる現代、ビールではなく日本酒で乾杯し日本酒文化を広めていただきたい!と熱く語る望月さんの想いは、会場のお客様にも確かに届いている様子でした。
お次はTYファームの島田さんから、本日の江戸東京野菜『三河島枝豆』について。島田さんは江戸東京野菜コンシェルジュの活動もなさっています。
種類の多い枝豆ですが、その地で栽培しやすくその土地に合った豆を作るのが、一番味がのって美味しいのだそうです。
さやの表面についている白い毛は自分の身を虫から守るためのもので、鮮度を図るバロメーター。
台風で全滅することもあった朝穫れの『三河島枝豆』のさやは色濃く、一粒一粒豆のやさしいお味がしっかりと感じられ、たっぷり盛られた一人分の枝豆はあっという間に無くなってしまいました。
本日の落語演目
開口一番『動物園』
三味線と太鼓の軽快なお囃子の中、登壇されたのは鶴光師匠の六番弟子である笑福亭希光さん。開口一番をつとめていただきます。
希光さんのお名前は、師匠曰く新幹線にかけたものだとか。
「下がひかり、上がのぞみ。」
会場からは「あぁ〜」と納得の笑いが。さらに畳みかけられた一言に会場からは「おぉ…!!」と拍手が起きました。
希光さんのお名前がお客様にしっかりとインプットされたところで、さぁ、いよいよ本題です。
『虎の見世物』『ライオンの見世物』ともいわれる演目『動物園』。仕事もせずブラブラしている無精な男が、ぴったりの仕事を世話してもらうことになったのですが、
好条件に飛びつき行き着いた現場は、移動動物園。目玉の虎が死んでしまったので、虎の皮をかぶって虎になりすまして欲しい、という。檻に入り園長から歩き方を教わるのですが、
動物園のアナウンスが「虎とライオンの猛獣ショー」の開催を告げたから、さぁ大変!檻の中にライオンが放たれ男はパニック。果たして男の運命は…というお話。
空腹ゆえのパン欲しさに子供にからむシーンや、虎の歩き方を園長に教わるシーンはリズミカルでコミカル。パニックののちに待つサゲへ向け勢いの良い語り口を見せていただきました。
一席目『掛取り』
背の金によく映える結三柏紋入りの黒色の着物に黒色の羽織を纏い壇上へ上がられるのは、お待ちかねの桂文治師匠。 嫌味なくスカッとお金に関わる噺を披露し「大福帳」や「書き入れ時」の意味を教えてくださりつつも、「だから私の落語はレベルが高いの。」と自賛ドヤ顔でしっかり笑いをとり私たちを飽きさせません。
本題『掛取り』は年の暮れ大晦日のお噺。貧乏暮らしの八さんが借金取りの好きなものを並べて帰すという、借金取り撃退法の一席です。
10代目の文治師匠から教わったという11代目文治師匠のお噺で、訪ねて来る借金取りは三人。狂歌好きの大家、芝居好きの酒屋の番頭、喧嘩好きの魚屋。
本当は「掛け取り萬歳」といい、最後は萬歳になります。
今は亡き、春風亭柳昇師匠の『カラオケ病院』や彦六の正蔵師匠のお噺を真似して大きな笑いをとったかと思えば、二人目・歌舞伎好きの酒屋の番頭のシーンでは、
三味線や太鼓のお囃子を入れ、花道の歩き方、歌舞伎独特の言い回しなどで会場を魅せ、パワーのあるいつもの語り口とはまた違った一面をご披露してくださいました。
15分の仲入り中、本日2つ目のお酒『紀土 純米酒』が振る舞われました。
会場のお客様もほろ酔い気分で写真を撮り合ったり、同じテーブルの方とお酌をし合って改めて乾杯をしたり、と思い思いに楽しまれている様子でした。
二席目『親子酒』
さぁさぁいよいよ文治師匠の二席目『親子酒』です。
登壇すると、「前半ちょっとやり過ぎちゃいました。後半はすぐ終わりますから。」と言いつつも、某デパートで師匠の身に起きた事件を嫌味たっぷりに面白おかしく話しつつ、気づかぬ間に本題へ。
実はこの『親子酒』、お師匠さんからは直に教わっておらず、弟弟子にあたる右團治さんからお師匠さんのビデオを貸してもらって覚えたお噺だそう。
お師匠さんが晩年、最も得意としていたお噺で「師匠が僕にくれた宝物」と、とても大切にされているお噺なだけに、壇上に上がられる文治師匠の姿や語り口からはいつにも増して熱が感じられました。
それにしても会場の笑いの波はどんどん大きくなり、その重なりは増すばかり。文治師匠が目の前でクサく演じるお酒と肴の塩辛を食べる仕草に、誰もが自分のお料理やお酒のことなど忘れてしまったようです。
会場中が確信を持って、また確実に訪れる笑いを待って文治師匠を見つめているようでした。
「師匠が僕にくれた宝物」という『親子酒』は、二〇〇九年の文化庁芸術祭で新人賞を獲られた文治師匠十八番の演目。声をあげハンカチで目元を拭いながら笑い楽しむ女性もいらっしゃった程の会場の盛り上がりは、文治師匠が壇上を降りられてからも暫く冷めることはありませんでした。
本日のお料理
先付けの江戸東京野菜『三河島枝豆』をはじめ、八寸に帆立とたらこと雲丹の和え物や田楽、ローストビーフや鶏つくねなど。 お弁当には秋の始まりを感じる色とりどりの野菜や盛り込まれ、食欲をそそります。焼物には、秋の味覚の代表・鮭の木ノ子マヨネーズ焼きに大根味噌漬けを添えて。 留椀には柚子香る松茸と焼霜鱚といった旬の食材を。水菓子は季節のフルーツと安納芋ようかんをお楽しみいただきました。
本日の日本酒を楽しむ会
今回の日本酒を楽しむ会は、先にも望月酒造さんからご紹介があったとおり、和歌山の平和酒造さんよりご提供いただきました。
落語会が終わり、残りの2種類のお酒をお食事といただきながら平和酒蔵造り手の荒瀬さんに、日本酒『紀土』と酒造りへのこだわりを元気良くお話いただきました。
日本酒『紀土』は山と海に囲まれた和歌山の海南市、高野山の麓で造っているお酒。今年で10年のお酒になります。
山でろ過された伏流水の軟水を使用して作っており、口当たりが優しく、切れのいい酒質はこの良質な軟水の湧き水からきています。
お酒が飲めない人でも飲めてしまう、価値観を変える日本酒『紀土』を味わいにぜひ、和歌山へも足を運んでみてはいかがでしょうか。
毎度大盛況の抽選会!!
最後の抽選会は、毎度ながら会場からどよめきや感嘆の声のあがり、大盛況!
TYファームさんからは『寺島なす』や『朝採れお野菜セットお届け』、平和酒蔵さんからは『お酒や書籍』、演舞場からは『東をどりの手ぬぐい』、
そして文治師匠からは、『独演会のチケットや手ぬぐい、サイン色紙』が賞品となり大変盛り上がりました。
日頃ご贔屓に来場いただいている東寄席ファンのお客様にはこれまで以上のボリュームを感じていただけたことでしょう。
会場は抽選の番号が上がるたびに喜びの声が広がり、見知らぬお客様同士も「良かったわね!!」と喜び合ったり、じゃんけんに負けると残念がったり、写真を取り合ったりして
楽しまれていました。笑顔の絶えない賑わいで本日のイベントは終了となりました。
次回は10月28日(金)落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会「古今亭菊之丞独演会」です。どうぞ、お楽しみに!