演舞場発 東寄席 第十九回 2016年10月28日
2016年10月28日、ここ新橋演舞場の地下食堂『東』では、第十九回目の東寄席『落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会』が開催されました。
新橋演舞場地下食堂『東寄席』に今回で三回目のご出演となります、古今亭菊之丞師匠にご登壇いただきました。
二ツ目時代の2002年にNHK新人演芸大賞で落語部門の大賞を受賞したのをきっかけに、2003年、入門から11年目にして異例の単独真打(一人真打)昇進を果たした超実力派の噺家さんです。
真打昇進後も2008、2009、2011年と三度の国立演芸花形演芸会金賞受賞、2013年には文化科学大臣新人賞を受賞されるなど、大きく飛躍し続けています。
役者さんの様なお顔立ちで様子もよく、噺も巧いとくればこれはもう期待せずにはいられません。
テーブルに準備された会席弁当とお酒を少しずつ味わいながら、会場が段々と満席になっていく様子にソワソワしつつ開演を待ちます。
日本酒を楽しむ会
まずは毎度おなじみ、望月酒店(神奈川県厚木市)のご主人・望月太郎さんより、本日の日本酒を楽しむ会にお酒をご提供くださった蔵元さんのご紹介です。
今回は、今注目を集めている天保十二年創業の蔵元・群馬の聖酒造(ひじりしゅぞう)さんに自慢の純米吟醸酒『聖(ひじり)』をご提供いただきました。
100年以上続く企業としては蔵元さんと酒屋さんが最も多いと言われますが、群馬県内にある20件ほどの蔵元さんは今、世代交代が非常に活発。
体制を変えながらも伝統の酒造りを守り続けていて、聖酒造さんもそんな蔵元さんのうちの一つです。
『聖』というブランドができてからはまだ3年ほどで、そういった意味では非常に若い蔵元さんです。
海外の方含めて日本酒が評価されるようになってきている今だからこそ、未来ある蔵元さんのお酒ということで今回ご紹介くださいました。
聖酒造さんからご提供いただきました本日のお酒は、4種類の「聖」ブランド。どのお酒もしっかりとした太い味とキレの良さが特徴的です。
(写真右から順に)
・聖 五百万石 純米吟醸
・聖 渡舟 純米吟醸
・聖 直汲み 純米生
・聖 山田錦 純米吟醸
群馬県渋川市・聖酒造(ひじりしゅぞう)の赤城蔵は、蛍が舞い沢蟹が遊ぶ自然環境の中、赤城山西南麓に流れる清冽な伏流水で酒を造り続けて百七十年の歴史ある酒蔵です。
「名水あるところに名酒あり」と云われますが、水も空気も申し分ない環境でその伝統と技を守り続けて、世代交代と共に新たなブランドを立ち上げまさにこれから!というところ。
聖ブランドを立ち上げられてからはまだ3年。
八代目蔵元・今井社長も今日のような大きな会場でお話されることは初めてということもあり、たくさんのお客さんの生の反応、お味の感想を直に受け取ってとてもイキイキした様子でした。
本日のお料理
先付けの『五関晩生(ごせきばんせい)』小松菜の煮浸しをはじめ、八寸に生ハムや秋鮭の酒粕わさび漬け、海月と胡瓜の中華風和え、蛸と野菜のアヒージョや豚角煮など酒の肴としても楽しめるお料理の数々。 向付の鯛としめ鯖は、程よくのった脂の甘みとねっとりとした食感がただ新鮮なだけではない、厳選された素材の旨味を感じさせてくれます。 煮物には大根や白滝、ちくわなどが演舞場風おでんとして振舞われ、ホイルの中から顔を見せてくれたのは鮭と秋の味覚占地茸やエリンギの焼き物たち。 最後は、ふわふわの生クリームと甘さ控えめの餡をまるく包み整えた抹茶大福を巨峰とともにお楽しみいただきました。
お次は江戸東京野菜コンシェルジュを兼任されているTYファームの島田さんから、
本日の江戸東京野菜・伝統小松菜の『五関晩生(ごせきばんせい)』について。
第一声「どうです皆さん、とろけますでしょう?」とニヤリとした笑みで会場を見渡します。
「美味しかった!」「柔らかい!」という声に混じって「え?これ小松菜だったの?」という声も。
東京で一番育てられている野菜「小松菜」。
なんでも今流通しているのは、青梗菜などと掛け合わされ強く美しくなった新小松菜で五関晩生の様な原小松菜とは姿も食感も違うそうです。
そこで原小松菜を「伝統小松菜」と呼ぶように。
筋ばった新小松菜とは違って、五関晩生小松菜の味は甘く、筋もなく柔らかいのが特徴。
秋に種を巻いて冬に収穫するのが圧倒的に味がのって美味しいということですが、今回、その一年中で一番美味しい今の五関晩生小松菜を煮浸しにしていただきました。
柔らかいというよりも甘くてとろけます。島田さんのおっしゃる通り。
種類も豊富で美味しい江戸東京野菜。次回ご紹介くださるのはどんな野菜だろうか、と楽しみでなりません。
本日の落語演目
開口一番『手紙無筆』
開口一番を飾るのは、小里ん師匠門下の柳家小多けさん。
静かに登場され深々と丁寧にお辞儀をされるそのお姿はシックな色のお着物をお召しなこともあって、とても純朴な印象。
演目は『手紙無筆(てがみむひつ)』。若い頃は学者であったと自称するご隠居の元へ、字の読み書きが出来ない人間(無筆)が手紙の朗読を頼みに来る。
ところが実のところ、ただ物知りなだけで自身も字の読み書きが出来ないご隠居は、最初は「鳥目だから読めない」などと言って追い返そうとしますが誤魔化しきれず、
あの手この手でどうにか手紙っぽく読んでなんとか誤魔化そうとします、…が結局最後にはばれてしまう。
というお話。
小多けさんはクール語り口と表情でグッと観客を惹きつけます。
ちょっとした嫌味を吐く男を演じれば「なんて子憎たらしい!」と失笑を誘い、表情一つ変えず放たれる淡々としたボケで笑いを重ねていきました。
『道具屋』などの他のお噺も聴いてみたい、そう思わせる不思議な魅力のある小多けさん、お見事でした!
さぁさぁ、開口一番小多けさんの次はいよいよ今夜の主役、菊之丞師匠の出番です!
白っぽい蒸栗(むしくり)色のお着物に、紅碧(べにみどり)色の羽織で静かに登壇なさる菊之丞師匠。若旦那風の様子の良さと金屏風の反射もあってか、なんともお上品な佇まいです。
会場からも「待ってました!」と云わんばかりの、拍手とどよめきが起こりました。
一席目『たいこ腹』
新橋といえば築地がすぐそこですが…「築地市場の豊洲移転問題、どうするんでしょうか。演芸場にしちゃいましょうよ豊洲演舞場。我々もシアン化合物なんかには負けませんよ!」といきなりの笑いでさすがのつかみです。
会場も緩やかに温まってまいります。
そして話題は、芸人の間でも難しいと云われる商売『太鼓もち』へ。一流の芸どころ新橋にも太鼓もちはおらず、現在7名しかいないのだとか。
太鼓もち役を演じながら、「主体性はないが協調性はすこぶる高い。」「今や太鼓もちよりトキの数の方が多い、国で保護しなくては!」なんて。リズミカルな笑いの被せ技に声をあげ笑っていると
いつの間にか本題へ引き込まれていました。
『たいこ腹』は古典落語。元々は上方落語の演目で、別題は『幇間腹』。
伊勢屋の道楽息子・孝太郎が鍼医の元に弟子入りして修業を始めたはいいが、「誰かに試したい…」と人体実験の相手を探し始めます。
そして、幇間(ほうかん・たいこ)の一八を実験台にすることを都合よく思いついてしまい、お茶屋に一八を呼び出します。
逃げようとする一八ですが「鍼一本につき5万と新しい着物を進呈する」という約束で人体実験は始まります。
しかしあまりの痛さに飛び起きると、鍼は中で折れるわ2本目も3本目の鍼も同じように折れ、話はラストのサゲへ…という展開。
このお茶屋の女将を演じる菊之丞師匠。男性なのに、体の傾き方や手先・目線の所作、その表情は本当に女性のようで美しい。
元々芸への高い評価の中でも、特に「女形の演じ分け」に定評がある師匠です。女形はおてのものなのでしょう。
会場のお客さまも皆、師匠に注目。手元の食事もお酒もまるで忘れてしまったかのように、見惚れていました。
そして一歩間違うとグロテスクなお話になってしまいそうな後半の一八実験台のシーンでも、その場では細部まで想像させない程度の程よいスピード感と笑いへの誘いで、
一八の情けない様子に憐れさを感じ同情しつつも笑わずにはいられない、笑いを止められないひとときとなりました。
二席目『二番煎じ』
二席目の登壇に「たっぷり!」という声がかかります。
「たっぷり!なんてありがとうございます。でもこういったお客様が実は一番先に帰ってしまったりするわけですが…」と軽く笑いを呼び戻します。
『二番煎じ』も古典落語の演目の一つ。簡単に云うと火事の噺です、といっても「火の用心」のお話。
真冬の夜、町内の旦那衆が集まって夜回りをすることになりました。旦那衆は二組に分かれて交代で夜回りをすれば、寒い思いも少なくて済むと思いつき、先に一の組が夜回りに出かけます。
しかしあまりの寒さで拍子木は打てないわ、金棒も引きずるわ、火の用心の声もまともに唄えず全くの役立たず。それでもなんとか一回りして戻り、二の組と交代に。
すると、火の回りで番小屋での飲酒は禁止されているが、家のものが持たせてくれたと言って酒を取り出す者が現れます。当然みんな飲みたい。
そこで万が一の言い訳として、酒ではなく「煎じ薬」ということにすればいいと話はまとまると、あっという間に酒盛りが始まります。
宴もたけなわというそのとき、見回りの役人が戸を叩く。酒を隠しつつ慌てて役人を中へ入れるが…という展開。
火をくべたり、猪肉を食べたり、酔っ払ったり、そこには何もないはずなのにイメージを具現化するような菊之丞師匠のその仕草に、会場からは「あ、熱そうっ!」など一々歓声が上がり、 お客さま皆が師匠の世界へどっぷりと嵌りきっている様子で、笑いはいつまでも収まりませんでした。
裏のメインイベント抽選会!!
さぁ、いよいよ最後の抽選会!今や裏のメインイベントと言っていい程、毎度会場からはどよめきや歓喜の声があがり、大盛況!
お客様に少しでも楽しい時間を過ごして満足してお帰りいただきたい、という演舞場の想いを受け取っていただけているのを感じます。
今回、TYファームさんからは本日ご紹介いただいた『五関晩生小松菜』や『朝採れお野菜セットのお届け』、聖酒蔵さんからは箱入りの「聖」大吟醸や前かけ、
菊之丞師匠からは『独演会のペアチケット』と本日書いていただいた『サイン色紙』などが賞品となりました。
演舞場・内藤さんから当選番号が読み上げられると、ワァ!と各所で声があがり、テーブルからは「おめでとう!」という声と共に拍手がわきます。
当選者の方も「やったー!」と手をあげたりガッツポーズで喜びながら、ニコニコ満面の笑顔でプレゼントを受け取っていらっしゃいました。
来年、2017年の第一弾「東寄席」は、1月31日(火)、人間国宝・一龍斎貞水師匠をお招きし講談をご披露していただきます。ここ「東寄席」では初の講談となりますので、どうぞお楽しみに!
そして2月は、2月14日(金)バレンタイン特別企画に風間杜夫師匠の落語とトークショー、2月27日(月)には桃月庵白酒師匠にご出演いただき独演会を行う予定です。
詳しくは下記リンクよりご覧ください。
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東寄席 落語と日本酒を楽しむ会 2017 今後の予定
- 第二十一回 人間国宝・一龍斎貞水独演会 1月31日(火)18:30開演
- 第二十二回 バレンタイン特別企画 風間杜夫独演会 2月14日(金)18:30開演
- 第二十三回 桃月庵白酒独演会 2月27日(月)18:30開演
次回は11月29日(火)落語と日本酒と山梨早川町の秋の味覚を楽しむ会「柳家さん喬独演会」です。お申し込み締め切りは11月21日(月)。
2017年3月の「東寄席」には珍しい方をお招きする予定ですので、そちらの情報も11月にお越しくださったお客様へ特別に先行公開する予定です。
2016年最後の新橋演舞場「東寄席」となります。
皆さまお誘い合わせの上、ぜひお越しください!